第8話  始祖の一族



マグナスの出陣から10日が過ぎ、20日が過ぎ、

討伐隊からは、何も報告なく時間だけが過ぎていった。

トランザニア各地で「ヒドラ」の被害が......。

被害は収まるどころか、拡大している。

玉座の間では「ヒドラ」被害の報告を、各重臣達から聴いていた。

伝令によれば、2体出現しているとのこと....。

マグナスの討伐隊は、かなりの苦戦をしていると...。


突然‥‥、玉座の間に、ひとりの男が入ってきた。

黒い執事服。高い身長。顔に無数の縫い傷。黒髪で瞳は金色。

王爵家に仕える‥初老の執事イワンだった。

ひざまずき、

『失礼を承知で申し上げます‥‥遺憾ながら‥マグナス公爵様討伐隊が‥

全滅したと‥我が眷属より、私めに報告がありました。』

声は重く、玉座の間を沈黙させた。玉座の間は、一瞬で凍りついた。


『馬鹿な‥‥我と同等の古代魔法を操る‥。

マグナスの実力は、我と、ほぼ変わらんのだぞ!!間違えないのか!!』

悔しさからの....八つ当たりなのか...。声を張り上げたが......。

イワンの黙って跪くのを見て...。

すぐに意気消沈し、がっくりと、肩を落とす。

オブリオは下を向いた。顔をあげられない。したたる涙が足元に落ちる。

ドミナスは肩が震えている。

『閣下この件は、この末弟に任せていただけないでしょうか?』

震える声で、跪き、床に”ポロポロ”と涙を落とした。


会議を終え、オブリオはほとばしる感情をあらわに、自室に戻る。

自室に戻るとベッドで、”スヤスヤ”眠っている双子の男の子がいた。

その横のベッドには、8歳になる愛娘が寝ている。

子供達の横で、一緒に寝ている妻は「観る者の心」を奪う。


まさに絶世の美女とは....彼女のことだろう。

見目麗みめうるわしい女性であった。歳の頃は30代に見える。

緑青色の髪を、綺麗に纏め上げ、耳には白金の耳飾り。

唇は小さく薄桃色。黒い瞳。肌は白い絹のようにツヤやかで、

胸周りが開いた、白い部屋着を着ていた。母乳を与えてるせいか、

小柄なのに胸は、かなり張り出している。

彼女はアドリア公国の第三王女で、幼き頃から、

栴檀せんだんは二葉よりかぐわし」と、

貴族達は、口々に話をしていた。

王族の高い魔力も引き継いでおり、大陸でも名高い、

「カルディア魔法国の魔法学院」を首席で卒業した。

カルディアやアドリア公国、メデルザード王国の人族の多くが、在籍。

人族以外でも、学院で学ぶのは許されていた。

学院の中でもその美貌で、一際目立っていた彼女は、

いつしか「アドリアの栴檀」と、呼ばれていた。

その噂は大陸中に広まり‥‥やがて隔離された国々にも、

聞こえるようになっていた。

オブリオは、亡き父の反対を押し切り、

その「魔法学院」に留学した。

人族だった亡き母は、それを許してくれた。


オブリオの「気配」に気付き......ゆっくり起き上がり、

『あなた‥‥長い時間‥‥会議をなさっていましたわね。

             「いつもの」が顔に出ております。』

ねぎらうように、オブリオの頬を両手で挟む。

『マルソー‥‥。』オブリオは妻に癒される。

マルソーは、両手で挟んでいたオブリオの頬から、手を離し、

左手で自分の襟元を、少し下げ、白い絹のような首を、差し出し、

『お召し上がりくださいませ。』優しくオビリオを見つめる。

『すまない』と、口から突出した2本の犬歯を、

白い絹のような首に穿うがつ。

『くぅ。』小さなため息を吐いて‥‥マルソーは、オリビオの体に

抱きついていった。少しして、首元から、その牙のような犬歯を離すと、

首元の2つの小さな穴は、みるみるふさがり、跡形も無くなっていた。


「始祖の一族」の特殊能力。「吸血」。

湧き上がる欲望を、抑えられないこの種族。

吸血行為は、これを抑え込む役割を果たす。

吸血した者を眷属として、従えることもできる。

その者の能力を奪い取り、その者として姿も変えられる能力...。


マルソーは、すぐに眠気がきたのか、愛娘が眠るベッドに入った。


少し落ち着いた、オブリオは寝室を出て、隠し扉を開けて、

王宮の地下へ向かう。「トランザニア家」の者しか入れない地下室....。

壁に青く光る魔石‥‥オブリオはその石に魔力を込める。

”ゴゴゴゴゴ”と扉が開き、中に入る。

奥に凄まじい魔力を感じる......大理石の床に魔法陣が浮かぶ。

不思議な空間で、倉庫とも違う。

先祖からの魔道具類や武器・防具が祭壇に展示のようにされている。

積み重ねられた小さな宝箱も沢山ある。

目の前の、祭壇の上に、展示されてるかのように

しっかりと固定された、うっすら光る刀....。

そこには亡き父から受け継いだ「桜刀」があった。

『これを使う時が来ようとは‥‥。』とつぶやき、


オブリオは、桜刀を持ち出し、地下室を後にした。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る