第2話  依頼と妻



ここは、ズードリア大陸の西の大国たいこくアドリア公国。

タザの街にある冒険者のギルド支部に、

俺は、入って行く。

”ざわっ”とした、ギルド内。

『おい‥‥あの人って』‥‥。

冒険者達の見た目から俺は、きっとこう映っているんだろう...。


S級と呼ばれる、凄腕の冒険者。

年の頃は30代。黒のテンガロンハット。違和感がある髪色。

端正な顔だが、左頬に目立つ十字傷があるので強面こわもて

肌は、日焼けで黒く、優しい目。瞳は黒銀色。

鍛えあげられた、筋性のとれた身体。

腰に独特な「刀」を2振ふたふり挿ししている。

妙に人垂らしそうに感じるのは、なぜなのだろう?

身に付ける装備とまとわせる「覇気」。


いかにもと、映っているだろう。


”ざわざわ”してるギルド内を、

そんな事も気に止めず、受付まで無表情で歩く。

冒険者は、依頼を受けて、薬草採取や魔獣討伐のたぐいで、報酬を稼ぐ。

ダンジョン攻略で、財宝を求める冒険者達も多くいる。

何人かで、パーティーを編成することが多いのは、効率的だからだ。      

だが‥‥俺は、「ソロ」の冒険者だ。

                      

タザのギルド支部に入った俺は、少し”ニタ”っとして。

『支部からの討伐依頼があったキマイラ。

討伐の証明の‥‥これがキマイラの尾だ。』

身分証にもなる冒険者証も一緒に出した。


いつも俺を担当してくてれる。ギルドの制服が良く似合う受付嬢は、

慣れたもので、笑顔をみせながら‥‥『確認いたします。お待ちください。』

軽くお辞儀をして席を立ち、ギルド内の奥にある、

「解体室」に入って行く。

              

しばし‥‥。


ギルド内の奥にある「解体室」から帰ってきた受付嬢は、

『ゴクトーさんいつもありがとうございます。

確認が取れました。これは、依頼料です。』”ニコッ”として、

金貨と銀貨が入ってる布の小袋を、差し出してくれる。

(...いつも笑顔が可愛いなぁ..この子......。)  考えながら、       

顔は無表情で、俺は、小袋の中身も確認せずに、少し格好をつけて、

腰に下げている「アイテムボックス」に突っ込む。

『他の依頼は、あるのか?』と、笑顔の受付嬢にたずねる。              

受付嬢は、顔を急に曇らせ...。言いずらそうに、

『A級ランク以上の依頼が....、その内正式に、ギルド本部からの依頼が、

あるかと思います...。トランザニヤで「ヒドラの‥‥。』

俺は、受付嬢の言葉をさえぎり‥‥右手で”ストップ”する。

全てを聞かずに『「ヒドラ」か‥‥。』また格好をつけて、きびすを返す。

(...「ヒドラ」??...ソロだし...絶対無理なんですけど...。)

心の中で俺は、そうつぶやく。

依頼の話は、そのまま全部聞かずに、ざわつくギルド支部を出た。


整備された石畳のメインストリートを、

(...今回の依頼は...断りたいなぁ...。)

俺は、さっき聞いたヒドラの事を考え、少し湿った空気を感じながら、

”トボトボ”歩く。風は少し強いが、今日は、雨の降る気配はない。


アドリア公国は、大陸の西にあり‥‥エルド海に面してる。

タザの街は、アドリア公国の中心にある。アドリア公国城がある城下街。

行き交う人々も様々。「人」以外も、多くこの街で暮らしている。

獣人族、エルフ族、ドワーフ族、巨人族...。「亜人」と言われる種族も、

「ズードリア自由貿易条約」の利点から、

この大きな街に移り住んでいる。

「亜人」達の多くは、自国特有の技術ノウハウや、特産品などを、

この街にもたらす。人と「亜人」は、昔からそうやって共存してきた。

「武器防具屋」「魔道具と服屋」「薬屋」「食堂」「高級店」「宿屋」‥‥。

ここで暮らす人達の多くは、皆、商売を生業にして生活してる。

冒険者の多くは、基本定住しない。

旅をして依頼をこなし、縛られずに生きる。

自由に生きる冒険者達は、宿屋に泊まるか、野営して旅をするが‥‥。

今は、支部所属の冒険者になっているから、俺は、滅多に旅はしない。


”トボトボ”歩きながら、城下町のにぎわいを見る。

タザの城下街のほぼ真ん中に、ギルド支部はある。

歩くと時間は、多少かかるが、「タザ」の街の関所を目指す。

関所で番をしている2人の衛兵に、

『ごくろう様です。』軽く頭を下げながら関所を抜ける。

多くの国の街の関所は、入るには、身分の確認やらで、時間がかかる。

出る時は、なんの苦労もなくすんなり出れる。

俺は、この関所でいい「顔パス」なので、いつも挨拶だけだ。

関所を抜けて、土と砂利で舗装された、街道を歩く。

ここから南へ2km程離れたコイル村に、我が家がある。

我が家を目指して”トボトボ”帰る。関所を抜ける頃には、

日がだいぶかたむき、頬をつたう風が、冷んやり感じてくる。

(...寒いな...大好きな風呂...早く...帰ろう。)

考えながら、少し歩みを早める。


「コイル村」。腐れかかった木の立札に書いてある。

”ポツンポツン”と、数軒の家がある。

狩猟や作物を育てて、生計を立てる村で、のんびりした平和な村だ。

俺の家は、そこまで大きくなく、平家ひらやの家。

家の横には、自家栽培の畑があり、

家の前には、豊かに広がる草原もある。      

すぐ近くに大きな森や川がある。ここは、したる魔物も現れない。

猪や熊のような動物が、出るが魔物ではないので、

村の人達は、これを狩りして、生計を立てている。


もう日が暮れているが、平家の我が家に着く。

『ただいま。』玄関を開けると、

いつもは、お淑やかな声が弾けそう。          

 『お帰りなさい‥‥ダー様!!』

いきなり抱きつき、旦那を迎える妻。


髪の色は、桃色。目は白く、瞳の色が碧。

肌の色は、白いが、両腕と首元が日焼けしてる。

年の頃は、30代。胸はボイン。色気が凄い。

かなりスタイルも良いし、笑顔がチャーミングな美女。


妻のアカリだ。

(...今日もかわいいな....ボインボインだな...。)

俺は、考えながら優しく抱きしめる。

『報酬。』 妻が顔を赤らめて、俺から離れる。

すぐに「アイテムボックス」から小袋を出して、妻に渡す。

 『お疲れ様。‥今回の依頼は、楽勝だったのね。』

揶揄からかいながら、俺の体を手当り次第触り、

怪我が無いか確認しながら、「テント」を、ずっとさする。

『まぁ‥‥キマイラは、火山地帯を、棲家にしているからな‥‥

氷属性魔法と、無属性魔法。あとは‥‥なんとかな。”ハハハ”。』

照れ笑いの乾いた声で苦笑する。

(...キマイラは...楽勝だった...火山が噴火して危なかったんだぞ...。

...火山だぞ...噴火するぞ...そんな摩るな...。)

そんな事を考えながら、顔に血が昇る俺。

『少しソファーで休んでて‥お風呂を沸かすわ。』

なまめかしく‥”パチッ”とウィンク。

傷のある頬に「chu!!」 顔を少し赤らめる妻。


『先にお風呂に入るから、すぐ入ってきてね。背中を流すわ。

頑張ってもらわないと‥‥ね。体力勝負の体だから‥‥。

後で‥‥美味しいものを作るわ。 ”うふ”。』妻は、小躍りして、

腰を”フリフリ”しながら、上機嫌で、風呂場へ向かう。

 

キッチンがある綺麗に整理された、リビングのソファーで、

俺は10日ぶりの我が家で、”ホッ”としていた‥‥。

だが、急に顔が強張り、立ち上がり風呂場に向かう。 

緊張しながら‥‥風呂場のドアノブを掴む。

(...背中を...多分?..。

..頑張ってもらう...ん?...頑張る??...ん?...。)と、考えながら入る。  

暫くして、妻のなまめかしい声が、風呂場に響く。


風呂から上がり、

妻はダイニングルームのテーブルに、食事を並べている。

誇らしげに、

『やっと‥‥念願の薬が出来たの!』妻は笑顔。嬉しそうに。

『まぁ‥‥貴重な材料は、使い切ってしまったのだけれど。』

そこだけは、かなり残念そう。がっかりな顔になる。

風呂から上がった後、

妻は、とっとと、上は付けずの、セクシーネグリジェに着替えてる。

流石さすがだ。元々あっけらかんの性格。

妻の無言の圧力に‥‥俺も寝巻きに着替ている。

(...リラックス...リラックス...。)俺は心の中で、圧に抵抗する。

『あまり根を詰めずに‥‥やればいいんじゃないか‥‥ 

 ‥‥無理しなくていいんだよ‥‥。』

少し落ち込む妻に、安心させるよう愛情を込めて言う。


妻は村で、唯一の医薬師であり、治癒魔法師。

それが妻の仕事。

村の住民が病気や怪我を、おった時には、すぐに駆けつけ、

無償で治してる。その分、住民からは、はなはだしく感謝され、

肉や野菜、穀物、そうで無いものまで渡してくるので、

断りきれず、仕方無く貰っているらしい。


妻は冒険者として、

俺とパーティーを組んでいたことがある。様々な旅にも出た。

結婚を期に引退し、この村で医薬師をするために、ここに家を購入した。

家の横にある自家栽培の畑も、そのためだ。妻は大事に育てている。

妻のおかげで大した怪我もなく、俺は冒険者を続けられていた。

結婚して数年経つが‥‥子宝には、未だ恵まれなかった。


食事を取りながら‥‥右手の果実酒を”くぃ”っと飲んで、

『実は難しい依頼が、くるかもしれないんだ‥‥。』

険しい顔で言う俺に、

『あら‥‥ダー様ほどの人が難しいって?』あっけらかんの顔で答える。

『トランザニヤで「ヒドラ」が暴れ、かなり被害を受けてるらしい。

「ヒドラ」とは、どれぐらいの強さなのかが‥‥少し不安でな‥‥。

師匠が、相当苦戦を、強いられたと言っていたが‥‥。』

険しい顔のまま、グラスを強く握る俺に、 

『あのナガラ兄様が‥‥今回は、かなり危険よね。』

妻は真剣に、心配そうな顔をする。

(...師匠が...相当苦戦って...俺なら...即死レベルだろ...。)

妻が急に立ち上がるのを見ながら、考えていた。

そそくさと、自分の「研究室」に入って行き‥‥戻ってきて、

小瓶を”ニコニコ”しながら『ハイッ』って、手渡してくれた。

『この薬は、代々我が家に伝わる秘伝の薬。これを飲んで‥‥。』

艶かしい表情で‥‥俺の頬の傷をゆっくり‥‥指でなぞる妻。

     

(...妻の夜の合図...今度も相当やばいな...。)

(...無茶は..しないさ...。)

     

(...ん??...) 


考えながら、俺は不安になり‥‥また果樹酒を、あおる。





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