第5話 チーズバーガー

「……モモちゃん助かったらしいよな」

「あ、マジで良かったー。死んじゃってるんじゃないかって思ってて最近眠れなかったんだよ」


 そんな会話をする高校生くらいの男子たちの隣を、フード×マスク姿の俺は通り過ぎていく。


 ……最近よく聞くよな。モモちゃんってこの話題。


 ダンジョンで女の子を助けて一週間がたった。

 あれから別に俺のチャンネルが有名になったりとかそんなこともなく……いつもの様ないつも通りの日常を送っている。


「ちょっとは俺の話題だってあってもいいと思うのになー」


 そんなことを思いながらふと目に留まったバーガーショップに入り、チーズバーガーとコーラを注文して席に着く。


「うん、やっぱりハンバーガーはチーズバーガーに限るな!」


 そんなことを思いながら、目の暇つぶしの為にスマホを取り出す。

 

「……なんか面白い事ないか」


 そう思って見ていると、一つのニュースが目についた。

 それはこの前助けた女の子の記事……花坂モモというアイドル配信者ついての記事だった。


 記事の内容はざっとこんな感じだ。

 

・配信中に行方不明になっていたチャンネル登録者100万人越えのダンチューバ―花坂モモが探索者に”偶然”発見され生きて帰ってきたという事。

 

・助けた探索者については不明。


・現在、花坂モモは危険な状態だったが、都内の病院で治療を受け、現在は一命を取り留めているがまだ意識が戻ってないという事。

 

 そんなことが書かれていた。


「ふーん……」


 ……助けた時、なんか見たことあるなと思ってたけど、100万人越えの子だったんだ。


 モグモグしながら少しだけ考える。

 

「……あの時、あの子を助けた時配信したままだったら有名になったりしたのかな……」


 記事を見てそう思うが、首をすぐに横に振る。


「いやいや、確かに有名になったりしただろうけど。あの時の判断は間違ってなかった」


 だってそうだろう、あられもない姿でお漏らしもしちゃってたんだ。配信しっぱなしだと、あの子の痴態がネットに残っちゃうじゃないか。


 しかもアイドルやってるなら尚更、そう言う痴態は残らない方が良いだろう……


「だから、俺がしたことは正しかった……うん。間違いなく」


 ……あ、でも連絡先とか貰っとけばよかったかな?


「……貰える状況じゃなかったか」


 そう言えば今もまだ意識戻ってないんだった。


「……早く良くなればいいけど」


 あんな怖い思いをしたんだ、トラウマになっちゃってるかもしれないけど、立ち直ってほし……


「……そう言えば」


 そこまで考えて俺は一つ首を傾げた。


「……どうしてこの子深層に居たんだろ」


 深層に迷い込んだ理由は帰ってきて、助けたのが花坂モモだったと気が付いた時に一通り調べたから知っている。

 スケルトンナイトに追われて間違って逃げた先が深層だったっていう……


 まあ、このことについてとやかく言う事はない。

 誰だって自分が到底かなうはずもない敵が現れたら冷静な判断なんてできなくなっちゃうからね。


 だからここまではとりあえずいい……問題は、彼女がどうやって深層で生き残っていたかという事だ。


 上層の魔物は基本的にこちらから攻撃しない限りは襲ってこない魔物が多い。だが、深層の魔物はあちらから、探索者を探して殺しに来るのだ。


 必死に隠れていたって、一日も持たずに見つかって普通は死ぬはず……ましてや他捨てた時はあんなに注意散漫で、歩くだけしかできないくらいふらふらな状態でいたわけだ……もちろん気配なんて消してるような様子もなかったし……

 

 謎だ……謎過ぎる、なんで三日間も生き残れたのか……


「んー分からん……まあ、俺別にダンジョンの専門家でも何でもないしなー、こういうのはインテリに任せるにかぎる!」


 ひとしきり唸った後、俺はそう結論を出す。

 餅は餅屋、人には得意不得意があるのだ。


「……ん、あもうこんな時間か」


 スマホの時計を見ると、そろそろ17時に差し掛かろうとしている。


「さてと、それじゃ……そろそろダンジョンに行きましょうかね」


 そういって俺はダンジョンへと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る