第3話 絶望の少女
まだ、死にたくないなぁ……
そう思いながら少女はふらふらとした足取りでただひたすらにダンジョンの中を歩いていた。
三日。それが少女が”ダンジョンで遭難”している日数だ。
三日前、配信者だった花坂モモはいつもの様にダンジョンでの配信を行っていた。
同じ事務所の子である天宮レイと、和気あいあいと安全な場所での探索……いつも通りのダンジョン攻略の配信だった。
「それじゃ、そろそろ配信終わりま~す」
ハプニングが起きたのは、彼女が配信を終わろうとした時だった。
突然その魔物は彼女たちの目の前に現れたのだ。まるで誰かがそこに配置したかのように。
「あれ?魔物?」
それはただの鎧を着たスケルトンのように見えた。
「スケルトン? ねね、折角だし最後にあれ倒して終わろうよ?」
「いいねー」
スケルトンと言えば、少し強い探索者の人だったら一人で倒せるくらいの強さの魔物だ。
「え、でも大丈夫かな?」
「大丈夫だって、だって私たち二人いるんだよ? ★3のスケルトンくらい余裕だって」
「そうかな……そうかも?」
彼女たちは探索者であるが、それと同時にアイドルだった。
だからこそ安全な場所で安全な魔物を狩っていたのだが……
「それに、そろそろ新しい魔物も倒してみたいじゃん?」
心のゆるみがあったのは事実だ。けどそれであったとしても、余裕でスケルトンくらいは倒せるだろうと思っていたのだ。
「それも、そうだね……」
「やった!それじゃ……戦闘開始!」
レイちゃんがそう言ってスケルトンに切りかかったその瞬間だった……
『ケタケタ』
「え?」
突然目の前で真っ赤な液体が飛び散った。
モモは何が起こったか、一瞬理解できなかった。
スケルトンは骨だけの魔物、だから血なんて流れていないはずなのに……
レイちゃんが、スケルトンに切られたのだと。
「うわあああ⁉」
「ヒ、ヒール」
とっさに回復魔法を飛ばすが、血が止まらない。
「な、なんでっ……」
「痛い、痛いよぉ……」
鑑定持ちの彼女の眼にははっきりと見えた。
★10の魔物……スケルトンナイトの文字が。
「うそ、★10……」
「え?」
★10と言えば、世界最強の人がボロボロになりながらなんとか倒せた魔物だ。
「ヤバいっ……早く逃げないと‼」
「う、うん」
何故★10の魔物がこんな場所にいるのかと一瞬思うが、それよりも早くこの場から逃げなければ。
彼女たちは荷物の中から『脱出石』と呼ばれるアイテムを取り出した。
『脱出石』とは緊急事態の際にダンジョンから逃げることができる石だ。
これを使えば、目の前の怪物から逃げ延びることができるはず……そしてギルドに知らせないと。
そう思っていたのだが……
「あ、駄目だ……逃げられない」
「え?」
そう絶望するような声が聞こえ振り向いてみれば、レイの脱出石は粉々に砕けていた。
「……さっき攻撃喰らった時に壊れちゃったみたい」
「そんな……」
そう言って血を流しながら彼女は乾いた笑いを零した。
「戦おうって言ったのは私だ……それに血まみれでいつ死んでもおかしくない……だから」
そう言うとレイは立ち上がり剣を構えた。
「何秒持つか分からないけど、モモちゃんが逃げる時間だけでも稼ぐ……」
チラッとスケルトンナイトの方を見れば、微動だにせずこちらを見ているだけだ。
なんで動かないか分からない……けど。
モモは持っていた脱出石を握りしめ、レイにその脱出石を押し付けた。
「え、ちょっとモモ!?」
「レイちゃんは逃げて!」
確かに戦おうって言ったのは、レイちゃんだ。けど、私もレイちゃんを止めなかったし、それに……鑑定持ちの私が最初に鑑定しておけばこんな事にならなかった。
そうだ、私がちゃんとしてればこんなことにならなかったんだ。
だから……これは私の責任だ。
「逃げてっ‼」
再度そう叫んだ次の瞬間、レイの姿が目の前から消えていた。
「私のやらかしで、死んでほしくないもんね……」
シーンと静まり返るダンジョンの中、金属のすれる音がした。
「っ……」
音がした方を見れば、さっきまで動かなかったスケルトンキングがゆっくりとだがモモの方に歩いてきているのが見える。
「っ……逃げなきゃっ!」
逃げずにレイを脱出させたモモだが、もちろん死にたいわけじゃない。
幸い動き出したスケルトンナイトの動きは遅かった、だから全力で走れば逃げられる……はず。
そう思って少女は走り出す。
それが深層に繋がる道だと気が付かずに……
そして現在。
とっくにポーションもなくなった、スマホも、配信用のドローンも壊れちゃったし……
配信用のドローンさえ生きていれば、ドローンの出す救援信号を頼りに誰かが助けに来てくれたはずなのだが……
絶望的な状況。待っているのは……死。
嫌、もしかしたらもうとっくに死んでるのかも……?
そう思った時、モモのお腹が「ぐー」となった。それは紛れもなく体が食事を求めている……生きようとしていることの証明だった。
お腹、すいたなぁ……
一日だけダンジョンに潜るために来ていた彼女に、遭難している今残っている食料なんてあるわけなかった。
帰ったら、ステーキとか、お寿司とか……ケーキとか……いっぱいっぱい、おいしい物食べるんだ……
そう思って、想像しながら歩いていた彼女だったが突然現れた壁にぶつかり尻もちをついた。
「いたい……あ」
顔を上げた彼女が見た物は、絶望だった。
壁だと思っていたそれはゆっくりと振り返り、彼女を見下ろす。
「魔物……」
魔物はモモを握りつぶそうと手を伸ばしてくる。
早く逃げないと。
頭ではそう分かっているのに、限界を迎えていた彼女の体はもうピクリとも動くことはなかった。
「あぁ……」
誰か、誰か助けてよ……
「チェスト―――‼」
黒く濁った視界の中、その声と共に目の前の魔物は血をまき散らし真っ二つに裂けた。
……一撃?
何が起こったのか、理解することができず呆然としていた少女だったが、徐々にそれを成した物の輪郭がはっきりしてくる。
白髪、そしてまるで新選組の様な和風の服を着たミニスカートの同年代くらいの少女だ。
「おい、大丈夫……そうじゃないな」
彼女はそう言って声をかけてくれるが、モモは人が居たことに安堵し……
「人……だぁ」
ここには人が居るんだ……そう安堵した彼女は徐々に光を取り戻す視界の中、意識を闇の中へと落としたのだった。
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