ガレット・デ・ロワ

「明けましておめでとう今井さん。今年もよろしくね」

「うん、明けましておめでとう泉くん。今年もたくさんのスイーツ食べに行こうね」


 1月1日。今井さんに初詣に誘われた。その日はとても寒くお互い何枚着ているのかと突っ込まれそうなくらい厚着だった。


 お互いに遠くならない場所、学校の近くにある神社でお参りした後は、新年最初にピッタリのスイーツを彼女と食べに行くことになっている。


「お守り買ってもいい? お母さんから買ってきてほしいと頼まれたから」

「いいよ……私、おみくじしに行くから」


 参拝を終えて、すぐに買えるのではなく、お守りもあるが、先におみくじを引きに行くことにした。


「いっせーので、で、開ける?」

「うん、そうしようか」


 引っ付いているので紙と紙を離してからすぐに開けるようにしてから僕と今井さんは同時に開いた。

 

「大吉。泉くんは……」

「僕は凶だね」


 今年はいいことがなさそうだ。まぁ、去年もいろんなことに巻き込まれていいことなかったけど。


 おみくじに何と書かれているのか見ようとすると今井さんは急に僕の手を取りそして恋人繋ぎしてきた。


「凶でも大丈夫……私が大吉パワー分けるから」

「……あ、ありがとう」

「うん」


 自分から手を繋いだからか彼女は顔を真っ赤にして照れたので僕もつられて照れた。


 おみくじに書かれていることはそこまで気にすることのないことが多かったが、失せものはすぐに見つかることはない的なことが書かれていた。


 僕はおみくじを結びに行ったが、今井さんは財布の中に入れておくと言って結びには行かなかった。


 おみくじを引いた後は頼まれていたお守りを買い、お楽しみのスイーツを買いに行くことに


「じゃ、買いに行こっか」

「うん」


 彼女は何も言わず僕の手を取り、指を絡めてきた。寒さで冷えていたが、彼女の手は温かい。


「今井さんの手、温かいね」

「そう? 泉くんの手が温かいんじゃないの?」

「いやいや、今井さんだよ。ところで、今日買いに行くスイーツってどんなスイーツ?」


 スイーツを食べに行くとは聞いたがどんなスイーツかはまだ聞いていない。


 知ってるスイーツかなと思っていると彼女は隣でボソッと呟いた。


「ガレット・デ・ロワ」

「聞いたことないな……」


 何だか本のタイトルにありそな名前だ。いや、人の名前っぽい。


「日本で近いものならパイ。ガレット・デ・ロワはフランスのお菓子」

「へぇ、フランス」


 ちょうど信号が赤になったので僕はスマホをズボンのポケットから取り出し、ガレット・デ・ロワと検索した。


 検索するとガレット・デ・ロワの写真が出てきて見ると確かに今井さんの言う通りパイみたいなものだ。


「外はパリッ、中はアーモンドだよ」

「へぇ、気になる……」

「……また悪い癖出てる」

「うぐっ」


 じとーとした目を向けられ僕は彼女の方を見ずにスマホをポケットへと入れる。


「あんまり同じ反応はしない方がいいよ」

「そうだね、頑張るよ。そのガレット・デ・ロワは今井さん、食べたことある?」

「一度だけある。その食べたことがある店に今から向かいます」


 僕は目的地を知らないので彼女に案内してもらうことにした。ガレット・デ・ロワが売っている店は神社から少し歩いたところにあった。


 人気店なのか店内は人でいっぱいで僕達は、お持ち帰りにして今井さんの家で食べることになった。


「人気店なんだね」

「そうみたい……私が前に来たときは空いてたんだけど……」


 それにしても1月1日からやっているお店とは珍しい。周りには閉まっているお店が多い中。


 お店から今井さんの家に着くとさっそく紅茶と一緒にガレット・デ・ロワを食べることに。


「「いただきます」」


 ガレット・デ・ロワは、今井さんが言っていた通り、外はパリッ、中にはアーモンドクリームが入っていた。


(美味しい……)


 思っていたより美味しくて無言で食べ、気付いたときにはお皿にはなくなっていた。


「満足……」


 隣に座る今井さんはそうボソッと呟き、そして僕の肩にもたれ掛かってきた。


「泉くん」

「ん? どうかした?」

「膝枕してあげる。今日、スイーツ買うのに付き合ってくれたお礼……」


 そう言って今井さんはトントンと太ももを優しく叩く。


 スイーツを買うのに付き合うのはいつものことだし、お礼なんて必要ないんだけどな……。


 いいよと断ろうとしたが、彼女は俺の耳元で囁いた。


「このチャンス見逃したら絶対後悔するよ」

「!」


 確かに彼女の言う通りかもしれない。今井さんに膝枕してあげるなんて言われるのはこれが最後かもしれない。


 僕も男だ。一度でいいから膝枕してほしいという気持ちがないわけではない。


「じゃあ、お願いしようかな」

「うん、ポスッとおいで」


 ポスッととは何だろうかと思いながら仰向けに寝て彼女の膝に頭を置いた。目を開けると、下を向く今井さんと目が合った。


「横の方がいいかな」

「どっちでもいいよ。けど、よしよしされたいなら横かな」


 別に頭を撫でられたいとは思っていないが、横を向くと今井さんが僕の頭を優しく撫で始めた。


「泉くん、もふもふ。撫でがいがある……」

「そう?」

「うん……あっ、何だか急に猫カフェに行って猫もふもふしたくなってきた」

「猫カフェか……今度一緒に行く?」

「うん、行きたい! 今日は泉くんとたくさん触れ合うから別の日に」


 僕と触れ合うって今のこの状況がそうなのだろうか。


 しばらく今井さんにもふもふされた後、僕は眠気に襲われていたので寝てしまう前に起き上がった。

 

「ありがとう、今井さん」

「癒された?」

「癒され……うん、癒された」

「それなら良かった」

「今井さん!?」


 突然、後ろから手を回され、今井さんにむぎゅーと抱きしめられた。


「泉くんが足りないから抱きしめた……」


(足りないとは……)


「泉くん、大好き」

「うん、僕も今井さんのこと大好きだよ」


 僕はこういう甘い時間が苦手だ。けれど、嫌いではない。






         (完)

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スイーツより甘いのは彼女と過ごす時間 柊なのは @aoihoshi310

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