第45話 迷子

Side:テア


 私はスイータリアちゃんとパン屋をやっているテア。

 最近、身体強化スキルが生えた。

 パンを捏ねてたからかな。

 スイータリアちゃんも身体強化スキルを持っている。

 お揃いでちょっと嬉しい。


 休み時間、シナグル魔道具百貨店で暇を潰す。

 ここは、色々な魔道具があって見ていて飽きない。


 くすぐり魔道具だって。

 悪戯用かな。

 お試し下さいと魔道具が置いてあったので、自分に対して使ってみる。


「うひゃひゃ、だめ。これはだめ」


 酷い目にあった。

 ええと、光の剣。

 人気商品と書いてある。


 お試し用の魔道具を手に取る。

 魔道具は剣の柄しかない。

 起動すると光の刃が伸びた。

 おっかなびっくり指で光の刃に触る。

 指は突き抜けた。

 これで斬れるわけじゃないのね。

 これも玩具かな。


 歌う人形がある。

 隣には踊る人形。

 試さなくてもどんな物か分かる。


 オルゴールの魔道具がある。

 私はその魔道具を起動した。

 物悲しいオルゴールの音色が曲を奏でる。


 エプロンの裾を掴まれた。

 見ると3歳ぐらいの女の子が泣いている。

 オルゴールに感動したってわけじゃないわよね。

 迷子かな。


 店員クラリッサさんの所に連れて行く。

 迷子のアナウンスが店内に流れた。

 女の子はエプロンの裾を離さない。


 待てども親は来ない。

 ええと、ポイントカードがあるから、以前この店に来たってことよね。

 お節介かもしれないけど、話をしてみよう。


「ええとどこから来たの」

「ガタガタで、ズシンズシンでうがぁのガコン」


 何なのか分からない。

 ガタガタは馬車かな。


「お馬さんはいた?」

「ふたつ」


 2頭立ての馬車ね。

 ズシンズシンはもしかしてモンスター?

 うがぁと吠えて、ガコンと馬車が襲われたのね。

 で、この子だけこの店に来たと。

 緊急避難先としては確かにこの店は最適。

 みんな親切だから。


 となると、ポイントカードで元の位置に戻るとおそらく馬車はいないわね。

 下手をするとモンスターがいるかも。


「名前は?」

「レイラ、3ちゃい」


 とりあえず名前が分かればオッケー。

 この店の掲示板にレイラちゃんを保護してますと貼っておけば良い。


 レイラちゃんは怖いのか私のエプロンの裾を離さない。

 あれを試してみよう。

 くすぐりの魔道具の所へきて、レイラちゃんをくすぐる。


「ひゃひゃひゃ、はははっ」


 レイラちゃんが泣き止んだ。


「笑った方が可愛いわよ。じゃあ次は光の剣でチャンバラね」


 光の剣でチャンバラする。


「や、やられた」

「ゆうちゃ、レイラ」


 今は楽しく遊んでいるけど、夜になったらきっとパニックになるわね。

 また、エプロンの裾を掴まれた。


「エプロン好きなの?」

「ママがしてた」

「そう」


 エプロンをしている人はお母さんという掏り込みなのね。


「どうやら、保護者はいないようだ」

「シナグルさん、この子はうちで与ろうと思います」

「そうしてくれるとありがたい」

「光の剣をふたつ下さい。おいくらですか?」

「いいよ、ただで。サービスしておく」


 光る剣をお土産に家に帰る。


「そうか。それは大変だったな。レイラ、安心しろ。ここがお前の家だと思って好きにしていいからな」


 そう言ってソル姉がレイラちゃんを抱きしめた。


「うん」


「これ、光の剣じゃないか。欲しかったんだ」


 兄達が光る剣に食いついた。


「レイラちゃんのために買ってきたんだから遊んであげて」

「おう」


 レイラちゃんはしばらくチャンバラをすると眠くなったみたい。

 目蓋が下がり始めている。


「レイラちゃんがお眠だからまた今度ね」


 しばらくしてから。


「ママ! きゃー! ああー!」


 レイラちゃんの叫び声がした。

 やっぱりね。

 こんなことになるんじゃないかと思った。


 ソル姉がレイラちゃんを抱きしめている。


「ソル姉、エプロンを付けて」


 そう言ってエプロンを渡した。

 ソル姉がエプロンを付けるとレイラちゃんはエプロンの端を掴んで安心したみたい。


「ご飯を食べさせないとな」


 店から持ってきたパンをミルクに浸して少し煮てお粥にする。

 レイラちゃんは、エプロンの裾を離さないで、片手でお粥を食べた。

 ソル姉がエプロンして添い寝するらしい。


 レイラちゃんはモンスターが怖かったようね。

 たぶんトラウマになるのかも。

 それと両親は亡くなったということも考えないと。

 でも、その可能性は低いと考えてる。


 なぜならレイラちゃんがポイントカードを持っていたということは親も持っていたはず。

 たぶん、馬車の積み荷が大事なので、全速力で逃げる前にレイラちゃんだけを逃がした。

 いくら何でも命より大事な積み荷はないでしょうから、おそらく逃げ切れたのね。

 でもレイラちゃんを転移した場所に行くのはモンスターが怖いのかもね。


 これは長期戦になりそう。

 しつこいモンスターは1週間ぐらいその場にいたりする。

 冒険者のソル姉から、そういう話を聞いた。

 レイラちゃんの両親が来るまで、レイラちゃんの精神状態が良くなるといいけど。

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