第44話 アイス

Side:サーバン

 フーリッシュ侯爵の密偵。

 ほんとは使用人なんだけどね。

 グルメ評論家かもじゃなくて、グルメ評論家だと思っている。

 コーヒーゼリーの生みの親サーバンを讃えよ。

 シナグルに作り方を聞いたのは内緒。


 今まで知った味はアイスコーヒー、ホットコーヒー、カフェオレ、シナモンコーヒー。

 他にもコーヒーの飲み方があるんじゃないか。


 うん、浮かびそうだな。

 女性の胸を見てそう思った。

 そうだ、コーヒーに何か浮かべよう。


「コーヒーに浮かぶ白いまん丸の、おっとここから先を言うと変態に見られる」

「なんだコーヒーフロートか」


 なぬっ、シナグルはどれだけコーヒーを極めているのか。


「それ、レシピを教えてくれ」

「レシピって言っても、アイスコーヒーにバニラアイスを浮かべただけだぞ」


「アイスってあれか高級品の。食ったことがないから食べてみたい」

「うちの魔道具でアイス製造機があるぞ」


 えっ、そんな便利な物が。

 買って来て試してみる。

 生クリームと砂糖と卵を入れるんだな。

 後は魔道具がやってくれる。

 おお、できた。

 舐めてみると口の中にクリームがとろける。


 こんな美味い物があっただなんて。

 さっそくアイスコーヒーに浮かべてみる。

 むっ、これを上手に食べるには。

 アイスをスプーンで突いてコーヒーに溶かして飲むのが良いようだ。

 溶かし過ぎもちょっと良くないようだ。

 ちょうど良い溶かし具合が存在する。

 奥が深い。


 しかし、アイスの魔道具の在庫はかなりあったが何で売れないんだ。

 こんなに美味いのなら、品切れになるはずだろ。


 フーリッシュ侯爵にアイス製造魔道具が値段が上がると手紙に書いたら、商人が買い付けにきた。

 でもあの商人は侯爵の敵対貴族の御用商人。

 侯爵のすぐそばにスパイがいるな。

 でも警告の手紙なんか送らない。


 敵対貴族の目に入ったら僕なんかすぐに捻り潰される。

 はぁ、コーヒーフロート美味し。


 アイス製造機は喫茶店コーナーに僕が寄付した。

 浮浪児がたまに材料を集めてアイスを作っては、腹いっぱい食って大抵腹を壊す。


 ちっとも善行ポイントが溜まらないじゃないか。

 お腹を壊した浮浪児達はみんな苦しくて嬉しいという変な顔をしている。


「お前ら。アイスはひとりカップひとつまで。徹底させなきゃ、魔道具を撤去するぞ」

「ルールは守らないとな。ルールを守らない奴は義賊王がモンスターに変えちゃうぞ」


 義賊王が来て、そんなことを言ってくれた。


 僕の脅しが効いたのか。

 義賊王の脅しが効いたのか、腹を壊す浮浪児はいなくなった。

 ポイントカードがたまに光るようになった。


 アイスは美味いけど、浮浪児が食ってた鍋ひとつは食い過ぎだよな。

 まったく人の欲望には限りはない。

 気をつけないと。


Side:ホロン・フーリッシュ


 宮廷魔道具師長であるホロン・フーリッシュである。

 遂にシナグルと引き分けた俺だ。

 ここから逆転するんだ。

 ここからは俺の連勝街道が始まるに違いない。


「依頼です。計算の魔道具を100個だそうです」

「計算か。そうだ算盤に俊敏の魔道具を付けろ。何倍もの速さで計算できるに違いない」

「はい」


 くふふ、勝ったな。

 どうだこの発想。

 常人には無理だろうな。

 笑いが止まらん。

 役人がこの便利さに驚いたら、次は商人に売り込むのだ。

 巨万の富が築けるに違いない。


「この欠陥魔道具を作ったのはお前か」


 またもや、大臣が怒鳴り込んできた。


「どこが欠陥だ。完璧だろう」

「お前がこの魔道具で計算してみろ」

「やればいいのか」


 俊敏の魔道具を起動して、算盤を弾く。

 あれっ、ちょっと待て。

 2つの玉を動かしたはずが3つ動いている。

 上手くいかない。

 うがぁ、イライラする。


「誰がこれを作ったんだ」

「お前だろ。狂って記憶があいまいにでもなったのか。俊敏の魔道具は速く動けるさ。だが細かい制御が難しくなる。達人でもない限りこの魔道具は使えない」

「くっ、陰謀だ。俺を陥れる陰謀だ」


「可哀想にな。妄想と現実の区別がつかなくなったか」

「そんな目で俺を見るな」

「欠陥品の材料の予算はお前の給料から引いておくぞ」

「そんな」


 悔しいのでシナグル魔道具百貨店から計算の魔道具を取り寄せる。

 足し算の魔道具を使ったら、数字を思い浮かべるだけで足されていく。

 そうだ、これだよ。

 これならイライラしない。

 作ったのは天才だな。


 はっ、シナグルの野郎じゃないか。

 シナグルを讃えてどうする。


「なに笑っている?」


 部下が笑っているので問い詰める。


「もう負けを認めましょうよ」

「嫌だ。負けてなんかいない。あの計算の魔道具だって達人が使えば高性能だ。勝ちだ」


 そうだ負けてない。

 くそっ、大きなことを起こすぞ。


「王族からの依頼です。大臣から、今度失敗したら首だからとの言伝がありました」


 お題は、威圧の魔道具か。

 威圧なんて人生経験で起こす技だ。

 薄っぺらい王族を偉大な人物に見せられるわけないだろう。


 待てよ。

 シナグルに依頼を振って功績を横取り。

 適当な魔道具をシナグルからと言って王族に差し出そう。

 くくくっ、これでシナグルの命も終わりだ。

 なんでこんなことを思いつかなかったのか。

 すり替えなんて簡単にできる。

 シナグルをどう表舞台に引きずりだすかだな。

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