第42話 難しい課題

Side:新兵

「今日の課題は、10回ポイントカードを夕刻までに光らせるだ。この街から出るなよ」


 ポイントカードを10回光らせるお題を貰った。

 ふっ、こんなの簡単だ。

 俺は露店で銅貨1枚のパンを10個買って、浮浪児を探した。


「パンをやるぞ」

「毒が入っているかも」

「親切をしてくれる人には裏があるって、善人金貸しのおっちゃんが言ってた」

「信用できない」


 めんどくさいな。


「10回ポイントカードを光らせるって、課題なんだよ」

「なら貰う」


 10個のパンはすぐになくなった。

 だがポイントカードは光らない。


「何でだ」

「だって課題だろ。そんなのに感謝するかよ」


 くそっ、裏を見透かされたってことか。

 まあ、善意の押し売りはたしかに気持ち悪いな。

 甘くないが、そんなものだと思う。


「お前、2個貰ってたな。何で2個貰った」

「妹がいるから」

「そうか。妹を大事にしろよ」


 男の子が泣きそうだ。

 この会話のどこに泣きそうな要素がある。

 考えろ。

 泣きそうだってことは悲しいってことだよな。

 何が悲しい。

 妹がなんらかの原因でここに来れなかったのか。


「病気か?」

「うん」

「医者には診せたか」

「診せてない。浮浪児をただで診てくれる医者なんていない」

「案内しろ」


 浮浪児に案内されて行った小屋モドキに寝てた女の子は酷かった。

 腐敗臭がする。

 これは手遅れなんじゃないか。


 有り金叩いてもだめだろうな。

 仲間からカンパしてもらって金を集めるか。


 軍服が汚れると怒られるかもな。

 布を買ってきて女の子を包む。


 そして、優しく抱き上げて、シナグル魔道具百貨店に急ぐ。

 喫茶店コーナーに行くと仲間は誰もいない。

 そうだよな。

 まだポイントカードを10回光らせられないのだろう。

 困った。

 女の子は今にも死にそうだ。

 動かしたのが良くなかったのか。


「おう、こいつは酷いな。俺に診せてみろ」


 そう言ったのはどこから見ても盗賊の男。

 それも盗賊のボスだ。

 でもこいつが助けてくれるなら。


「治せるのか?」

「おうよ。決死隊で死んだ奴はいない」


 盗賊風の男は、汚れるのも構わずに女子に触る。

 そして、高価なポーションが惜しみなく女の子に掛けられた。

 まだ駄目みたいだ。


 何か分からない魔道具が使われる。

 回復の魔道具だったようだ。

 やせ細ったが、女の子の呼吸は良くなった。

 そして、何の肉か分からない肉が出され、魔道具と共に使われた。


 女の子はふっくらして、いきなり立ち上がる。

 そしてぴょんぴょん跳ねた。

 そのジャンプした高さは天井に頭をぶつけるほどだ。


 俺のポイントカードが光った。


「名前を聞いても?」

「ここじゃ義賊王と呼ばれている」

「俺はマスタマリナー教官のところの新兵です」

「漂流船長のところのな。貸しだと思うなら感謝してくれ」

「それはもう、ありがとうございます」

「俺も感謝する。ありがとう」

「私も。おじさんありがとう」


「おう感謝の気持ちが心地いいぜ」


 義賊王のポイントカードが3回光った。

 義賊王は不思議な人だ。

 ポイントカードより感謝の言葉が嬉しいみたいだ。

 ポイントカードには目もくれてない。


 俺は1回光らせることができた。

 あと9回。


 金でなんとかしようなんて考えた自分が恥ずかしい。

 善行ポイント貰うなら心から親切にしたいと思わないと。

 義賊王を見習おう。


 汚れたって良い。

 どぶさらいをやったが、誰も見てないのでポイントカードは光らない。

 いいさ。

 汚れたが、その分さっきの金で何とかしようという汚い心が綺麗になった気がする。


 服を洗うか。

 洗濯している洗い場にいくと。


「あんた船乗りさんかい?」


 そう聞かれたので。


「はい」


 と答える。


「だいぶ汚したね。洗濯用具をただで貸してやるよ」

「何で親切に?」

「今日は船乗りさんに親切にされたからね」


 きっと仲間の誰かがポイントカードを光らせるためにやったのだろう。

 こうやって、人の善意が回っているんだな。


 俺は下着姿になって服を洗った。

 道具を貸して貰えたのは感謝の気持ちしかない。


「お礼に洗濯を手伝うよ」


 下着姿で、洗濯を手伝う。

 足踏みでの洗濯は重労働だな。

 船の上では、新兵の仕事だ。


 だから、つらくはない。

 慣れたものだ。


 ポイントカードは光らなかったが別に良い。

 服を洗ってすっきりした。

 そこへ、女の子が現れた。


「乾燥の魔道具要りませんか。お代は感謝の気持ちで良いです」


 善意のサイクルに協力しよう。


「やってくれ」

「はい」


 魔道具を使うと厚手の軍服があっと言う間に乾いた。

 首から下げた女の子のポイントカードが光る。


「君は善行ポイントを溜めたら何を願うのかい」

「お針子になりたいんです。ミシンていう魔道具があって、糸さえあれば真っ直ぐに綺麗に縫えるらしいです」

「そう。ポイントが溜まってミシンが貰えると良いね」

「はい」


 さあ、ポイントカードをあと9回光らせるぞ。

 そして俺もポイントを溜めて、大活躍するぞ。

 いや、ポイントカードは感謝の気持ち。

 俺が活躍するんじゃなくてみんなの感謝の気持ちで助けてもらうんだ。

 善意のサイクルの結果として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る