第41話 10回の課題
Side:ドリフト・マスタマリナー
わしは漂流船長ドリフト。
船で漂流してたのは何年前か。
3年前だったかな。
何とか帰還出来ていまは教官をやっておる。
漂流していた時は、シナグルの魔道具で毎日船と自宅を行き来していた。
だからみなが言うほどの偉業でもないし、英雄譚でもない。
強いて言えば、犠牲者をひとりも出さなかったのが、褒められる点だと思っとる。
それ以外は駄目な船長だった。
「よし、最初の教えは、何としてでも生き残れ」
新兵を前に教訓を垂れる。
わしの教えなど糞の役にも立たないが、役立つ物もなくもない。
「アイアイサー」
「よろしい。わしが漂流してた時の助けになった店を紹介する。シナグル魔道具百貨店だ。魔道具が欲しいと祈れ」
これが非常事態に助けになる奥の手だ。
「あっ扉が現れました」
「扉が現れた者は潜って待っておれ」
「「「「「「「「「「アイアイサー」」」」」」」」」」
「残りは甲板磨きだな。返事は?」
イエッサーと承諾の返事が90人から返ってきた。
ふん、1割の10人しか扉が現れない。
恐らく真剣に祈ってないか、頭が固いのだろうな。
だが十分だ。
これで10隻の船が非常事態に対応できる。
さて、わしも行くか。
ポイントカードで転移。
店の前に出た。
新兵は店の商品を興味深げに見ている。
「整列」
新兵がきびきびと動く。
「ポイントカードを受け取るように。受け取ったら喫茶店コーナーで休憩」
「「「「「「「「「「アイアイサー」」」」」」」」」」
どれ、孫たちのお土産に魔道具を買っていくとするか。
玩具の魔道具の種類もたくさんある。
女の子には歌う人形。
男の子には光の剣を選んだ。
喫茶店コーナーに入る。
新兵が一斉に立つ。
「座れ。生き残るためにここを切り札とする。どう利用するのが良いと思う? そこのお前答えてみろ」
「イエッサー。ポイントカードの転移を使います」
「落第点だな。全員が生き残る道を模索してこそだ。そこのお前答えてみろ」
「イエッサー。善行ポイントを溜めて願いを叶えてもらうことで全員を救います」
「よろしい。満点だ。善行ポイントを溜めるのは大変だぞ。考えろ。その方法が生死を分ける。今日の課題は、10回ポイントカードを夕刻までに光らせるだ。この街から出るなよ」
「「「「「「「「「「アイアイサー」」」」」」」」」」
わしも10回光らせることに挑戦してみよう。
さて、何をすべきかな。
まだまだ、力はある。
荷物運びでも何でもできるが、探すと重い荷物をもった人などいない。
だろうな、そんな都合よくはいかないものだ。
漂流している間に嫌というほど知った。
ふむ、冒険者ギルドへでも行って、生活依頼を探すべきか。
いやわしにできることをしよう。
風の声を聞いて、雲に天気を尋ねる。
そして古傷に訊く。
古傷は雨が降ると言っている。
ふむ、一雨きそうだ。
洗濯物を干している場所に行って。
「一雨来るぞ!」
そう声を上げた。
「確かかい」
「船乗りの勘だ」
「そうかい。じゃ取り込むとしようかね」
「手伝うぞ」
10人ほどの洗濯物の取り込みを手伝って、しばらくしてから雨が降り始めた。
当たって良かったな。
嘘つきにならずに済んだ。
通り雨だったようで、しばらくして雨はやみカラッと晴れ上がった。
洗濯物を再び干すのを手伝う。
ポイントカードが18回は光った。
ふむ、楽勝だな。
ノルマは果たしたが、教官が同じではな。
一仕事して、喉が渇いた。
エールを飲むか。
酒場は意外と混雑していた。
さすが交易都市。
空いている席に座りエールを頼む。
よく冷えたエールが出された。
シナグル魔道具百貨店の冷却魔道具を使っているのだろう。
「俺の酒が飲めねえってのか」
「自分のペースで飲みたいんだよ。構うなよ」
「差しつ差されつが醍醐味だってのに」
「いいやお前こそ酒の何たるかが分かってない。そんな野暮だからもてないんだぞ」
「言ったな」
「言ったらどうする」
喧嘩が始まった。
喧嘩はあちこちに飛び火して拡大していく。
まったく、こいつらはどうしようもないな。
わしは厨房に入ると、桶に水を入れた。
そしてそれを喧嘩している奴らにぶっかけた。
「冷たっ!」
「何する!」
「あいつか」
「モンスターと殴り合いしたことのあるわしに掛かって来るなら好きにしろ。めんどくさい全員で来い」
「やめとけ。あいつは義賊王の友達だ」
「やばい」
「酒は楽しく飲むものだ分かったか?」
「おう」
「返事はイエッサーだ!」
「「「「「「イエッサー」」」」」」
拍手が上がってポイントカードが6回光る。
迷惑だと思っていた客からだろう。
久しぶりに喧嘩しても良かったんだがな。
まあ良い。
義賊王に感謝しておこう。
今度、会ったら喫茶店コーナーでコーヒーとカレーを奢るとしよう。
既に10回のノルマを終えた、新兵が喫茶店コーナーで待機していた。
「優秀だな。どんなことをやった?」
「子守です。子供を10人寝かしつけました、サー」
特技のある奴は強い。
しょうもない特技でも意外なところで役に立つ場合がある。
子守とて馬鹿にできない。
コツコツ善行を積めば、恐らくファンファーレが鳴るだろう。
そうすれば切り札が手に入る。
夕刻までに3回しか光らせられなかった者もいた。
だが満足そうだ。
「嬉しそうだな」
「イエッサー。感謝されるのは良いことです。照れ臭いですが、嬉しいです」
「そうか。その気持ちを忘れるなよ」
「イエッサー」
みんな良い経験ができたようだ。
偽善でも何でも良い。
善行ポイントが船の危機を救う場面は絶対にくる。
種を蒔けば収穫の時は来る。
そういうものだ。
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