第40話 コーヒーゼリー
Side:サーバン
フーリッシュ侯爵の密偵。
ほんとは使用人なんだけどね。
真面目にグルメ評論家かも知れないと思っている。
カレー粉は実に儲かった。
これでしばらく懐に気兼ねなくコーヒーが飲める。
コーヒーはブラックこれに限る。
たまに気分を変える時にはミルクや砂糖も入れるけど。
「よう、冷やかしの。カレーの偽物を作って儲けたらしいじゃないか」
くっ、一撃のソルが寄ってきた。
こいつは苦手なんだよな。
僕は戦闘力からきしだから、つい身構えてしまう。
「まあね」
「やればできるじゃないか」
褒めてくれたらしい。
「ふへへ、ありがとう」
とりあえず笑ってお礼を言っておいた。
「次は何を発明するんだ?」
「ええと、お菓子」
思いついたことを言ってみた。
カレーを食べた後のコーヒーも良いけど、コーヒーとお菓子はじつに相性が良い。
スイータリアの所のクッキーが不味いってわけじゃないけど。
「そうか。甘い物はそんなに好きじゃねぇけど頑張りな」
「おう」
お菓子を開発しなければいけなくなった。
急ぐ必要もないし、絶対じゃないけど、コーヒーを美味く飲めるなら開発するのもやぶさかではない。
ブラックコーヒーに合うのは甘い菓子だな。
だが、クッキーで良いという思いもある。
ああ。
ポンと手を打った。
コーヒーを菓子にしてしまえば良い。
コーヒー味のクッキーはスイータリアの所でも作っている。
作るのなら違う触感だ。
例えばプルプルした感じの。
その発想になぜなったかと言えば女性の胸が目に入ったからだ。
「プルプルしたコーヒーを使った菓子」
そう呟きながら店内をぶらつく。
密偵だからね。
「コーヒーゼリーでも作るのか」
シナグルに聞かれていたらしい。
「えっと材料は?」
「寒天はないから、ゼラチンを溶かしてコーヒーと砂糖を入れて固めるだけだな。食べる時にミルクを掛ける」
ゼラチンは知っている。
料理に使う。
使用人の仕事をしてた時に買いに行ったことがある。
使い方も知っている。
鍋に水とゼラチンを入れ火にかける。
溶けたらコーヒーと砂糖を入れる。
後は型に入れて冷やすだけだ。
簡単だな。
できたので、器に入れて、ミルクを掛ける。
ミルクが良く絡むようにスプーンでゼリーを細かくする。
最初から細かく切っておいた方が良いかもな。
スプーンですくって食べる。
ミルクコーヒーの味だな。
なんというか。
食事の最後に出て来たらそれなりに美味いだろう。
そう思っていたら、喫茶店コーナーにコーヒーゼリー始めましたの張り紙があった。
喫茶店コーナーのコーヒーゼリーは冷えてて美味い。
冷却の魔道具を使っているのか。
なるほどな。
甘い物が食べたくなったらコーヒーゼリーを食べよう。
Side:ホロン・フーリッシュ
宮廷魔道具師長であるホロン・フーリッシュである。
毒に耐性があるのが特技だ。
能無しなどではない。
「馬車の揺れをどうにかしてくれとの依頼です。依頼人は10名を越えてます」
「うん、俺も馬車の長時間の旅は嫌いだ。けつが痛くなるからな」
揺れをなんとかするならバネだろう。
板バネが主流だ。
だが魔道具に仕立てないと文句を言われる。
軟化の魔道具が在ったな。
鋼鉄の板バネに軟化の魔道具の合わせ技でいこう。
それを依頼主のもとへ送った。
クレームが付いた。
乗り心地がすこぶる悪いらしい。
知るか。
俺は知らない。
部下が悪いんだ。
それに板バネはそんな物だろう。
「お前、馬鹿か」
大臣にこんなことを言われる謂れはない。
「馬鹿ではない」
「鋼鉄を軟化させたら普通の鉄と変わりない。鉄の板バネなら簡単に手に入る。シナグル魔道具百貨店のサスペンション魔道具というのは凄いぞ。乗り心地が良くて鋼鉄の板バネほど壊れない」
くっ、シナグルの自慢など聞きたくない。
「用はそれだけか。俺は忙しい」
「愛人の相手で忙しいのか」
「悔しかったら愛人を作るんだな」
言い負かしてやった。
サスペンションなんて変な名前の魔道具が何だって、そんなのはすぐに壊れるに違いない。
取り寄せてみた。
魔道具の癖に核石も溜石もない。
えっ、魔力の充填が要らないのか。
これはただの道具というものではないか。
だが仕組みが理解できない。
クルクル丸まったバネだな。
このバネは植物の蔓みたいだ。
だが他の機能がよく分からない。
こんなに複雑なら、魔道具と名乗っても良いかも知れない。
送り状を良く見ると、サスペンションとしか書いてない。
魔道具とは一言もない。
用心深い奴だな。
よし、この複製を作らせよう。
鍛冶屋から、無理だとの話が上がってきた。
こんな複雑な物は作れないと。
なんだって。
シナグルは鍛冶屋でも何でもないんだぞ。
作れないわけがあるか。
バネすら作れないらしい。
肝であるバネがなんで作れない。
鋼鉄の太い線を曲げようとしたが無理だと言った。
たかがクルクルと巻くだけじゃないか。
軟化の魔道具を使えば良い。
硬化の魔道具をくれたら出来ると言ってきた。
柔らかくしたものを硬くする必要があるらしい。
めんどくさい。
くそっ、上手くいかないな。
もうこんな物など見たくない。
敗北した気分だ。
いや負けてなどいない。
シナグルだって魔道具のバネは作れなかったじゃないか。
引き分けだ。
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