第39話 またも困った客
Side:チルル
セイラからまた呼び出された。
「またも困った客よ。料理を5皿も頼んだのだけど一口しか口にしないの」
「味にうるさいお客なんじゃないの」
「私の所の料理が不味いって言ってるの」
「怒らないでよ」
「怒ってないわ。店の人が尋ねると問題を大きくするかも知れないから、お願い聞いてきて」
「客を装えば良いんだな?」
「ええ」
裏口から出て、正面の扉から入り直す。
そして客を装って席についた。
料理を食べ終わって俺は困った客のところに言った。
「なぁ、俺はこの店は美味いと思うんだが、あんたは違うみたいだな。あんたが美味いと思う店を教えてくれるか。参考にしたい」
「美味いと思った店などない」
「無いのか?」
「ああ、無いんだ。どこの料理を食っても味がしない」
俺はこの男が病気だと気づいた。
「良い魔道具がある」
俺は食べる魔道具を紹介してやった。
セイラの店では妊婦さんや老人ようにこの魔道具が常備してある。
「うおっ、味がする食べた感触がある。画期的だ」
「だろ」
「これなら食える」
男は5皿の料理を平らげた。
「この魔道具なら安く売ってやる」
「買わなきゃな」
困った客は満足して店を出て行った。
「ありがとう」
セイラからお礼を言われた。
「味がしない病気のひとだった」
「そう、たまにいるわね。何を食べても苦くて堪らないとか」
「俺の魔道具が役に立って良かったよ」
食べる魔道具は流行った。
食べるのが苦手な人ってこんなにもいるんだな。
ポイントカードが頻繁に光るようになった。
感謝されるのはなんかこそばゆい。
ファンファーレが鳴った。
この感謝の善行ポイントは俺が貰うべきではないな。
「セイラ、シナグルさんに魔道具を頼めるけど何にする?」
「私が貰ってもいいの?」
「いいさ。セイラのアイデアだ」
「じゃあ、評価の魔道具がほしい。自分の舌を信じないといけないのは分かるけど、たまに評価が欲しい時があるの」
「分かった。それを作ってもらおう」
ポイントカードの転移を使って、シナグル様の所へ行った。
「評価の魔道具か。良いだろう作ってやるよ。ララーラーラーラ―♪ラーラーラーラーラ―♪ラーラーラーラーラ―♪、ララーラーラ♪ラ♪ラーラーラー♪ララーラーラ♪ララーララ♪ラ♪ラ-ラーラーラーラ♪ラララ♪、ララーラ♪ララー♪ラー♪ララ♪ラーラ♪ラーラーラ♪」
「ありがとう」
「100人の評価だから、ばらつきはあるが問題ないだろう」
セイラの所に魔道具を持って行った。
「やってみるね」
セイラが魔道具を使う。
「どう?」
「5.1だって、10点満点なのかな。うーん微妙」
「でもセイラは立派だ。しょげてないから」
「チルルだって新しい魔道具開発でしょげてないでしょう。失敗は糧なのよ。失敗すればするほど成長していく」
「まあね。歌の開発は、失敗してもどこが悪いのか分からないけど。やればやる程イメージの種類が溜まっていく。だから確実に先進して行ってる実感はあるよ」
「私もこの魔道具で10点が出るように頑張る」
俺の魔道具開発に付き合って貰ったのだから、セイラの料理の研究にも付き合う。
そうだ。
次にポイントが溜まったら、改善点を言って貰える魔道具を頼もう。
評価の魔道具で俺の魔道具も評価して貰った。
「何点だった?」
「4.3」
俺もまだまだだな。
頑張らないと。
歌の開発も良いけど、魔道具のがわ作りと、核石と溜石と導線を嵌め込みをもっと頑張らないと。
「私の勝ちね」
「すぐに追いつくさ」
あんなことを言ったけどセイラには一生敵わない気がしてる。
セイラがいなければ、食べる魔道具は作れなかった。
その有用性もセイラに言われて気が付いた。
商売のことも勉強しないといけないかな。
「何? なんか顔についてる?」
「商売の勉強も必要かなと」
「よろしいセイラ先生が教えてあげる。何を聞きたいの?」
「物がどんな場面で役立つかってどうやったら分かる?」
「使う人の立場で考えるのよ。自分ならどう使うってだけじゃ駄目。あの人はどう使うかなって想像しないと」
「難しいけど考えてみる。世の中には色々な人がいるんだな。味がしない病気なんて初めて知ったよ」
「じゃあ、このレストランで働いてみる」
「料理人はできないよ」
「皿洗いの人が辞めちゃって、忙しい時間帯だけで良いの。お願い」
「セイラに頼まれたら嫌だとは言えないな。やるよ」
「ありがとう。チルルがまた行き詰ったら助けてあげる」
「その時は頼むよ」
忙しい時間帯に皿洗いする。
仕事が途切れた時にたまに客席を覗くと色々な人がいる。
そう言えばお客の人生なんか考えたことがない。
この人はどういう人生で、何を考えているとか。
何気ない会話が、色々な所で役に立ったりするのかな。
皿洗いの仕事も悪くない。
レストランは魔道具工房にはないドラマがあったりする。
歓声が上がって覗くと、プロポーズしたりしている。
喧嘩が起こることもある。
今度から魔道具工房にきたお客さんにはどういう仕事しているとか、嫌味にならない程度に聞いたりしてみよう。
きっと面白い話が聞けるに違いない。
それが商品開発に役立つような気がする。
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