第36話 カレー
Side:サーバン
フーリッシュ侯爵の密偵。
ほんとは使用人なんだけどね。
グルメ評論家かも知れない。
喫茶店コーナーに料理が加わった。
スパイシーな香りのする黄土色の料理。
見た目は泥みたいで不味そうだが、パンに付けても美味しい。
「気にいった? カレーって言うの」
スイータリアがわざわざ教えに来た。
「教えてくれてありがとう」
「ちぇっ、善行ポイントはなし。ケチね」
「料理の名前ぐらいじゃ感謝はできないな。このカレーのレシピがあるなら別だけど」
「あるよ。スパイスのターメリック、クミン、コリアンダー、カルダモン、チリーペッパーだけど」
「どれも聞いたことのないスパイスだ」
「ええっ、教えたのに善行ポイントが入ってない」
「作れないのに感謝するわけないだろ」
スパイスは船で交易していると聞いた。
同じ重さの金と取引されるとか。
庶民には手が出ない。
フーリッシュ侯爵にカレーのレシピを送った。
侯爵ならスパイスは手に入るだろう。
返事がきて怒られた。
架空のスパイスの名前なんか書いて来るなと。
スイータリアが嘘を言うはずはないな。
善行ポイントを狙ってたのだから。
くっ、未発見のスパイスがあったって良いじゃないか。
本当にカレーは美味いな。
毎日ここに食べに来よう。
カレーを食べた後のコーヒーも格別だ。
レシピのスパイスを手に入れて、フーリッシュ侯爵をぎゃふんと言わせたい。
まずカレーの黄色い色だ。
黄色芋というのがある。
それを粉にした。
辛さは唐辛子の粉でいいな。
芋の甘みと唐辛子の辛さでカレーとは違う何かができた。
ピリッとするハーブを付け加える。
うん、カレーぽくなった。
カレーほど美味しくないが、それなりに食べれる。
「スイータリアちゃん、カレーモドキのレシピを買わない?」
「試食してみてからね」
「どう」
「カレーほどじゃないけど。それなりね。でもお客様にはそれなりは出せない」
「分かった。さらにハーブを付け加えてみるよ」
カレーモドキの開発が進んだ。
一日一回、喫茶店コーナーでカレーを食べて、その味と匂いを記憶に刻む。
そして、自分が作ったカレーモドキを試食。
そんなことを一ヶ月繰り返した。
結構いい線行っていると思う。
喫茶店コーナーにカレーモドキを持ち込んでみた。
「カレー作ったのか」
シナグルが驚いている。
「いやまだ完成ではない。これじゃカレーモドキだ」
「カレーにどのスパイスを入れるとか決まりはない。だからモドキと言わずにカレーを名乗っても良いぞ」
「俺はやり遂げたのか。本家に認められるとは」
「おじちゃん、レシピを売らないで自分でカレー粉を作って売ったら。働いてないんだよね」
スイータリアにそう言われた。
「働いたら負けだ。レシピは一人じゃなくて大人数に売る。その代わり安くするけどな」
「じゃあ買う」
ポイントカードが光って、時たまポイントカードが光るようになった。
カレーで感謝を貰えるとは。
開発した甲斐がある。
ポイントを溜めてファンファーレが鳴ったら、本物のコーヒーを飲んで、そしてコーヒー豆を探す旅に出よう。
そしてコーヒー豆の大農園を作るんだ。
Side:ホロン・フーリッシュ
宮廷魔道具師長であるホロン・フーリッシュである。
最近、悪評が多いが、きっと嫉妬されているんだ。
そうに違いない。
「ええと、依頼が来ました。魔力旨味の亜種を開発せよとの依頼です」
「あんな毒とも知れん物を有難がって、みんなどうかしている」
「では断りますか」
「最近、評判の調味料がある。カレー粉だ。これを魔道具の容器に容れて渡せば良いだろう。容器の魔道具は乾燥にしろよ」
これで完璧なはずだ。
「馬鹿者! 市販されている調味料を持って来やがって、そんなの俺にだって手に入る」
凄い剣幕の料理長。
「魔力旨味は毒だ。あんな物を使ったらいけない」
「魔力が毒なら、人間は全員死んでいるな。お前は魔力を持ってないのか。そもそも魔力旨味に対するお前の意見など聞いてない」
「じゃあ、シナグルの野郎に頼め」
「そうするさ」
言ってしまった。
シナグルがこの難題をどうにかしたらどうしよう。
くそっ、魔力旨味はあいつが開発したと聞いた。
こうなったら、魔力旨味の悪評をばら撒いてやる。
噂は広まったが、毒に弱い小魚で実験する者が現れた。
魔力旨味の安全性が証明され、噂は鎮火した。
「シナグルの所に言ったら。本物のカレー粉を分けて貰えて、魔力旨味カレー風味の魔道具を作って貰えたぞ」
得意そうな料理長。
「くっ、魔力旨味の毒でみんな死んでしまえ」
「死なないさ。毒感知の魔道具にも反応しないのだからな」
「それだってシナグルが作ったんだ。なぜ俺が正しいと誰も信じない」
「お前なんて無能だろう。能無しの戯言に付き合う奴なんていない。害悪の毒虫はお前だ」
くそっ、言いたい放題言いやがって。
こうなったら、魔力旨味を食いまくって死んでやる。
腹が一杯になるぐらい魔力旨味を食ったが死ねない。
くそっ、これはきっと俺が魔力旨味の毒に対して耐性があるんだ。
そうに違いない。
みんな死んで俺だけが生き残る。
こんな痛快なことはない。
今に見てろ。
みんなが魔力旨味の毒で死んだらあざ笑ってやる。
塩だって取り過ぎたら死ぬんだぞ、砂糖だってそうだ。
無害な調味料などあるはずない。
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