第35話 漆むろ
Side:ネティブ
漆を乾燥させるには漆むろと呼ばれる部屋が必要だ。
温度と湿度が重要らしい。
温度計と湿度計が必要だ。
錬金術師に言って作ってもらう。
湿度計にはなんと髪の毛が使われているらしい。
そんなので分かるんだな。
その知識もシナグルの教本に書いてあった。
魔道具を使わない金継ぎは凄い時間が掛る。
一ヶ月を超えるのもざらだ。
金継ぎは物を大切に使う、そういう技術だ。
シナグルは魔道具職人なのによく知っているな。
「おじちゃん。教本を読んで」
あの女の子に懐かれた。
教本を読んでやる。
「分からなければ何度でも教えてやるぞ」
「はい」
教えているべそをかいている男の子がやってきた。
「ちょっとまってね。お客さんだ」
「皿を割っちゃって」
「はいよ。値が張っていいのなら急ぎでやるけど」
「これしかない」
男の子が持っていたのは大銅貨4枚。
明らかに足りない。
魔道具も核石と溜石が消耗する。
それに合った値段がある。
「私が金継ぎしたい。皿は初心者向けなんでしょう」
「失敗したら大変だぞ」
「そしたら謝る。私がやって良い?」
「うん。半ば諦めているから」
男の子から許可が出た。
皿が漆で接着された。
これで完成ではない。
固まったら、はみ出した部分をナイフでこする。
そして細かい砂で慎重に磨く。
隙間を埋め。
漆を重ね塗りする。
最後に漆を練って半分乾かし、銀粉を叩いて乾燥させたら完成。
男の子は毎日むろに入って様子を確認にきてた。
ついに完成。
ひびは銀色に輝いている。
「俺、金継ぎ職人になる」
「弟弟子ができたな」
「ええ。姉弟子と呼んで」
金継ぎ職人が二人に増えたので、良い感じだ。
金継ぎギルドも安泰だな。
ちなみに漆だけど精製した物を、木工ギルドでは塗料と混ぜてペンキみたいに使っている。
光沢が出るので高級感がある。
この技術も教本に書いてあった。
木の板に漆を塗った金継ぎギルドのカードを作った。
漆の技術をけっこう高値で売ったのでこんな遊びをしても金は余っている。
なぜか子供達が焼き物を割ると、自分で金継ぎしたいと言って来た。
二人のギルド会員が金継ぎを指導する。
そうするとなぜかギルド会員が増えた。
楽しいらしい。
「ひっぐひっぐ」
こうやって泣きながら訪ねてくる子供のなんて多い事よ。
直ると知ってみんな笑顔になる。
金継ぎは優しい技術だな。
失敗をなかったどころか、良い思い出に変えてくれる。
そう考えると魔道具は無粋だな。
自分で修復したほうが、失敗を取り返した気になれる。
魔道具はお役御免にしようか。
いや、使われない道具は悲しいな。
魔道具は金継ぎを失敗した子供にただで貸し出そう。
失敗しても魔道具なら上書きできる。
悲しい失敗体験をさらに悲しくさせないために使おう。
「うわーん。焦って、完全に乾いてないのに手に持ったら取れた」
さっそく出番か。
「この魔道具を使うといい」
魔道具を使って再修復が見事にできた。
「金継ぎ楽しい」
「気にいったらギルド会員になってくれ」
「うん」
おっと重たい背負い鞄を背負った子供が来た。
「うわーん、お皿を10枚も割っちゃった」
これは破片の組み合わせを探し出すのも大変だぞ。
「泣かないで。みんなでやりまょう」
「ああ、お兄ちゃん達に任せな」
背負いから破片が出された。
本当に大量だな。
「これはここじゃないかな」
「いや違うだろ。ぴったり合ってない」
「うえーん、直らないんだぁ」
「直るよ。飴でも舐めて見物しとこうな」
「ぐすん」
皿の破片が組み合わされる。
足りない部分も出てくる。
金継ぎは、足りない部分も埋めれば、修復できる。
別の皿の破片が混ざってしまうのも愛嬌だな。
パッチワークみたいでこれも味だ。
何とか最初の接着が終わった。
「直ったの」
「いいや乾燥に何日も掛かる。それから溝を埋めたり、色々と作業がある。気になるなら毎日来ると良い」
「うん」
10枚の皿は見事に金継ぎされた。
別の皿のが混ざったのもあるが、まあ良いだろう。
男の子は笑顔で帰って行った。
ポイントカードが光った。
子供達の格安の依頼を受けると赤字になることもしばしば。
でもポイントカードは確実に光る。
ファンファーレが鳴った。
焼き物を割った子供を更に笑顔にしたい。
「今回は早いな」
行ったシナグル魔道具百貨店で言われた。
「金継ぎで感謝の善行が溜まったんだ」
「何が欲しい?」
「漆むろの管理が難しい。魔道具に出来ないか」
「できるぞ。ララーラー♪ララー♪ララーラ♪ラ♪、ララーラ♪ラーラーラー♪ラーラーラー♪ラーラー♪だな」
水を入れる容器が付いている壁掛けの魔道具を作ってもらった。
部屋に掛けておけば良いらしい。
これで失敗が少なくなるに違いない。
魔道具は便利に使わないと。
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