第34話 最高の技

Side:ネティブ

 駄目だ。

 樹液とか色々、3日間、あーでもない、こうでもないと、やってみたが駄目だ。


 シナグルに頼むにはポイントを溜めないと。

 善行すると溜まるんだったな。


「いらっしゃい」

「蝶番を貰える」

「まいど。そうだ、サービスで取り付けもやってます。いかがします?」

「お願いしようかしら」


 錆びて腐った蝶番を取り換える。

 蝶番は二つあり、取り換えなかった蝶番も錆びて、開け閉めすると軋んだ音を立てた。


 油を差して、錆を落とし錆止めを塗る。


「そんなに丁寧にやらなくても良いのに」

「最高の商品を届けるのがモットーです」

「こんなにやってくれるのね。次に何かあったら、あなたの店で頼むわ」


 感謝してくれたのかポイントカードが光る。

 顧客を獲得して善行を積む。

 良い商売だ。


 ちょっとした努力。

 だがこの一歩が確実に大商人の道を進んでいると確信させる。


 頑張ったよ。

 ついにファンファーレが鳴った。

 ポイントも溜まったが、顧客も増えたのが良い。


 シナグル魔道具百貨店に転移する。


「ポイントが溜まりました」

「お待ちください」


 シナグルが現れた。


「望みはなんだ?」

「世界一の技術を見せてほしい。最高の接着剤を見せてくれ」


 そう言って僕は焼き物の破片を見せた。

 さあ、最高の技を見るぞ。

 見たからどうなるってものでもないが、最高の技というのを目に焼き付けるのも悪くない。

 その価値は計り知れないはずだ。


「接着剤でなくて、綺麗に直すこともできるが」

「いいや、接着剤が良いんだ」


「しかし、俺が世界一だって?」

「調度品を見れば分かる。例えば、灰色の棚。金属の棚だが、金具で取り付けられて棚の高さが変えられるよな

「まあな」

「この取り付けに使っている金具。どれも同じ物に見える」

「まあ、ボルトとナットはサイズにばらつきがあったら使えない」

「そのボルトとナットを見せてくれ」


 やっぱりだ。

 どのボルトとナットはぴったりと嵌る。

 こういうのは普通一対でしか使えないものだ。

 どれでも使えるなんて、優れた技術としか言いようがない。


「まあ、日本の技術は確かに凄い」

「これだけでも世界一を名乗れる。喫茶店コーナーの焼き物のカップもそうだ。取っ手があって全部同じに見える。ガラスのコップなんてあんな薄さには普通作れないだろう。スプーンはステンレスだと見た。大量のステンレスはここでしかみたことがない」

「そうだな」

「世界一は言い過ぎかも知れないが最高の技術だろう」

「分かった。最高の接着剤を見せる」


 シナグルは割れた焼き物のカップを出してきた。

 子供が割ったんだろうな。

 シナグルは太って不格好なペンみたいな容器の接着剤を出してきて、なんと1秒もしないうちにくっ付いた。

 なんと、接着剤は透明。


 これが最高の接着剤か素晴らしい。

 内側に白い接着剤を塗って、しばらくして完成。

 カップに水を入れたが問題なかった。


「ありがとう」

「まだお礼を言うのは早い」

「何かあるのか」

「これを見てみろ」


 シナグルが茶碗を出してきた。

 ヒビが入っていて割れた箇所がなんと黄金色だ。


「美しい」

「金継ぎだ。漆とありふれた材料でできる」

「漆というとあの痒くなるやつか」

「そうだ。この技法の本を書いてやってもいい」

「これは凄い価値だな」


 金継ぎを教えてもらえるらしい。

 俺は商人だが、漆を商売にするのは悪くない。

 職人を育てるのも金がある商人にしかできない。

 趣味として金継ぎをやるのは良いかもな。


 接着の奥深さを知った感じだ。


「俺としては魔道具屋だから魔道具ももって行け。ラーラーラ♪ラーラーラー♪ララーララ♪ラーララ♪ラ♪ラーラ♪、ララーラ♪ラ♪ララーラーラ♪ララー♪ララ♪ララーラ♪」


 シナグルが核石を作る。

 核石はペンのお化けに溜石と導線と共にはめ込まれた。


「金継ぎの魔道具か」

「そうだ金継ぎの魔道具だ。使うのは漆と小麦粉と金か銀の粉が要る」

「あの、接着技術を魔道具で再現か。こんなに貰って良いのか」

「俺が見せられる最高の接着技術を見せただけだ」


 女の子の家に花瓶を持っていった。

 もちろん金の粉で金継ぎした。


「綺麗」


 金継ぎは独特の美しさがある。

 たしかにひびが入っている。

 でもそれが味だ。


 例えるなら使い込まれた道具を見ているような気持ちか。

 傷が味なんだよな。

 こういう美もあるのか。

 金継ぎは絶対に物にするぞ。


「気にいったか?」

「どうやったらこんなことができるの」

「教本が届いたら見せてやるよ」


 シナグルから教本が届いた。

 漆取りは木に傷を付けて樹液を採るらしい。


 やってみたら、痒くてたまらない。

 駄目だ。

 僕には無理。

 瞬間接着剤の魔道具を使った。

 なんちゃって金継ぎが精々。


 漆の技術を木工ギルドに売ることにした。

 そうしたら、漆で痒くならない人間が現れた。


 痒くならない奴がいるなんて。

 任せた、漆採りを極めてくれ。


 僕は商人として支援に回らせてもらう。

 焼き物の破片を持って直してくれという人がボツボツと現れ始めた。

 金継ぎの魔道具で直す。


 これで良いのか。

 良くない。

 僕はほとんど何もしてない。


 魔道具はシナグルが作ったのだし、教本はまだ全部読んでない。

 いや、結果的に金継ぎは広まった。


 でもこんなの最高の商人の仕事とは言えない。

 そうだ。

 金継ぎギルドを作ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る