第30話 詐欺師祭り

Side:ベイス


「ある奴に聞いたんだが。美味い投資話があるってな」


 詐欺師を前に言ってみた。


「ああ、今ならキャンペーン中だ。友達を紹介したら、配当が1%高くなる」


 どうせ配当なんか払わないんだろう。

 ケチらずに10%高くなるとか言えないのかな。

 嘘くさくないように1%だろうがな。


 お前こそ詐欺師の仲間を紹介しろ。


「金貨1枚で良いか」

「もっとないのかよ」

「すまん金が無くてな」


 お前らに恵んでやる金はない。

 後で取り戻すにしてもな。

 金貨1枚で十分だ。


 こんな感じで詐欺グループ全てと会った。


「ブルータ、詐欺師祭りだ。お前の取り分は金の半分で良いか」

「いいや、金庫番から金を取り戻したら、被害者に返すときに同行させろ。できれば俺がやったと言いたい」

「分かった、金は俺、名誉はブルータだ。じゃ、始めるか」

「おう」


 召喚の魔道具で詐欺師を呼び出す。


「くっ、何だ。何が起こった。魔法か」

「お前ら悪人だよな」

「役人に突き出すなら好きにしろ」

「ブルータ」

「おう」


 ブルータが善人にする魔道具を突き出した。


「何だ、その魔道具は? やめろ。ああ、俺はなんて罪深いことをしたんだ」

「償え。ボスの言葉だ」

「分かった。心を入れ替える」


 詐欺師グループを全員善人にしてやった。

 他の詐欺師グループの情報も持っていたので、そいつらも同じように善人にしてやった。

 ちょろいぜ。

 俺が住む街の近隣から詐欺師がいなくなって良かったぜ。

 悪党は俺一人で良い。


「投資詐欺に騙されたでしょう。こちらは義賊王のブルータさん。彼が取り戻してくれたんだよ」


 騙された人の前に言って、俺はそう述べた。


「ありがとう」

「おう、良心の痛みが和らいだ。こっちこそありがとう」


「で、全額回収は無理だと判るよね」

「ええ、まあ」


 表情が曇る騙された人。


「さらに、取り戻し手数料で返金額の5%もらう」

「あんたら、詐欺グループの仲間じゃないのか」


 そういう疑念は分かるよ。

 だが考えてみれば分かる。

 詐欺師なんかは金を取ったら一銭も返さない。

 返すとしたら更に搾り取る策を取っている時だけだ。


「訴えたかったらどうぞ。逃げも隠れもしないから。これでも俺は法を犯したことがないのが自慢だ。義賊王も改心してからはそうだ」

「義賊王の名前は聞いている。だが本物か?」


「あれを見せてやれ」

「おう」


 義賊王が銀貨を指で折り曲げる。

 そして手の平に置いて叩いて元に戻した。


「ふへぇ、本物だ」


 大抵の被害者は手数料を認めた。

 訴えてきた奴も何人かいる。


 だが、詐欺師グループ全員が出頭して俺は詐欺と関係ないと証言した。

 詐欺師は鞭で叩かれる刑罰を受け入れた。

 だがちっとも痛そうじゃない。

 肉体を改造されたんだな。


 ブルータの所は、怪我をするとモンスターの肉を植え付けられる。

 そうすると物凄く力が出て頑健になる。

 鞭ぐらい屁でもないようだ。


 詐欺師退治は美味しいな。

 ブルータはかなり満足そうだ。

 凶悪な面だが笑っている。


「善行ポイントがたくさん入ったみたいだな」

「そんなのは要らないぜ。感謝の気持ちさえあれば良い。良心の痛みが消えるからな」

「また、詐欺師祭りやろう」

「おう」


 悪党を懲らしめて、金を搾り取る。

 俺みたいなのを本当の悪党って言うんだな。


 シナグル魔道具百貨店に行く。

 ここの客層も悪くなったな。

 ブルータの部下や元詐欺師が大勢いる。


 だが、みんな優しそうだ。

 目つきをみると善人かどうかが分かる。

 顔はいかついが草食獣みたいな目をしている。


 財布に穴が開いてたのか。

 客の一人が盛大に硬貨をぶちまけた。


 元詐欺師の奴らが目の色変えて転がる硬貨を追いかける。

 そして、客に金が返還された。


「1枚、足りないんだけど」


 拾い損ねたのがあるらしい。

 まあ4方に散らばったしな。


「済まなかった。渡し損ねた」


 元詐欺師のひとりが言う。

 そして銀貨を渡した。


「違う。足りないのは大銅貨」


 困った顔をした銀貨を出した奴。

 悪党の出番だな。


「転がるうちに大きくなったんだよ。もらっておきな」

「でもそれじゃ」

「この店のポイントカードの裏機能を知っているか。善行を積むとポイントが入る。素直に感謝してやりな。気が咎めたら、喫茶店コーナーで、余った金ぶん飲み物と食べ物を浮浪児にでもおごってやれば良い」


 納得いかないような顔で客は去っていった。


「しくじったな」


 俺は銀貨を出した元詐欺師に声を掛けた。


「でも、嫌な気分にはならないよ。お金落とすと最悪だから。そういう気持ちにさせなくて良かった」

「そうだな、モヤモヤさせたがな。詐欺はいけないな。足を洗ったんだろう」


「じゃあ、あんたならどうする?」

「なくなったお金を立て替えて、後で出て来たら店員から貰うと言うさ」

「金は出て来ないんじゃないか」

「いつか隙間なんかに大銅貨を落とす奴はいるよ。そいつを貰えば良い。で落としたと泣いている奴がいたら、同じ事をする。いつまでも解決しないが、誰も損してないだろう。それどころかたぶん善行ポイントが溜まる」


「賢いな」

「車輪操業は、馬鹿みたいだが続いていく。金貸しの俺にとっては車輪操業はカモだが」


 他人のために金を出してどうする。

 貸すのは返してもらうためだ。

 あげたりは絶対にしない。

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