第27話 転生

Side:とある巡礼


 私は母だったが、不注意で子供を失った。

 主人とはそれ以来上手く行かず、離婚することに、

 死んだ人に会えるという巡礼道を歩く。


 夢を見る魔道具に触る。

 ああ、あの子が元気に走り回っている。

 夢が覚めた。

 現実が襲い掛かる。

 こんなことなら夢を見るんじゃなかった。


 励ましの言葉の魔道具にも触る。

 そうあの子は私に生きろと言うのね。

 でも、現実は厳しい。


 浮浪児の巡礼と出会った。

 この巡礼道を歩いている限り死なないからとその浮浪児は言う。


「あなた、おばさんと生きてみる」

「うん、腹いっぱい食えるのなら」


 巡礼に出る前に貰ったポイントカードが光る。

 その光に慰められた気がした。

 浮浪児の巡礼を見つけるたびに声を掛けた。

 浮浪児は10人もになった。


 さあ、生きるわよ。

 巡礼相手の定食屋を始めた。


 近隣の村は格安で野菜や肉を売ってくれる。

 組合が合って値段が決められてて定食は高くは売れないけど、生きていくだけなら出来る。


 浮浪児に聞いてみた。


「幸せ?」

「うん、幸せ。今までで、一番じゃないけど。でも幸せ」


 一番を追い求めても虚しい。

 日々の幸せが一番なのよ。

 事故であの子が死ぬ前が今になっては一番幸せだと思う。

 でも今の暮らしもきっと破壊されたら、ああ幸せだったんだって思うに違いない。

 不幸に遭わないと幸せが分からないなんて、人間はなんて悲しい生き物。


 お金の許す限り、10人ではない巡礼の浮浪児達にただで食事を振る舞う。

 そのたびにポイントカードが光る。

 当たり前のことをしているのに。

 ファンファーレが鳴った。


「お母さん、音が鳴ったよ」


 浮浪児達は私をお母さんと呼んでくれる。


「鳴ったね」

「それって鳴るとお願いを叶えてもらえるんでしょう」

「ええ」

「行きなよ。お願いを叶えて貰いに」


 私は初めてポイントカードの転移を使った。

 ポイントが溜まったことを告げると奥へ通された。


「願いは?」

「死んだあの子を生き返らせて」

「この硬貨に祈れ」


 渡された硬貨を握り締め祈る。


「そなたの子供は既に転生した」


 えっ、再びどこかの家の子供になったの?

 答えはない。

 そうあの子はどこかで生きているのね。

 会っても分からないのかな。

 いいえきっと分るはず。

 巡礼道で、定食屋をやって待ちましょう。


 きっとそれが良いのね。

 再びポイントが溜まっても私は転生したあの子の場所を聞かない。

 聞けば会いに行きたくなって、いまのあの子の家庭を壊すから。

 いいのよ。

 生きているってだけで十分。


 ポイントカードを持って我が家に返してと言うと。

 定食屋に帰っていた。

 いつの間にかここが我が家になってたのね。


「願い事は叶った?」

「ええ、ばっちり」


「でもちょっと悲しそう」


 10人いる浮浪児達を代わる代わる抱きしめた。


「いまの私の子供はあなた達」

「うん、お母さん。僕達はお母さんの子供」


 これで良いのね。


「ああっ」


 泣いている人がいる。


「ポイント溜めればシナグル魔道具百貨店で亡くなった愛しい人がどうなっているか分かりますよ。時間が経つと転生しちゃうみたいですが」

「そうですか。じゃあ頑張ります。善行を積めばいいんですよね。巡礼が終わったら、人に尽くす仕事をしたいと思います」


 しばらく経って、また私のポイントカードが鳴った。


「叶えてほしい願いは浮浪児達が幸せになること」

「何人だ」

「十人です」


 ポイントカードを10枚貰った。

 なるほど、ポイントを溜めればあとは浮浪児達が好きに願いを言うでしょう。


「この店の近くにスケートリンクの学校がある。そこなら浮浪児達が学べる」

「はい通わせようと思います」


 そして、ひとりの浮浪児のポイントが溜まった。


「願いを叶えて貰ったよ」

「どんな願いか聞いていい?」


「母さんが若返るような魔道具を願った。一生に一度しか使えないらしいけど。使って」

「いいの」

「母さんがいなければ、僕らはたぶん死んでいたか、幽鬼のように巡礼道を彷徨っていた。感謝の気持ち」


 ありがたく十字架の形の魔道具を使う。

 鏡を見ると若い頃に戻っていた。


「母さん」


 この声は面倒をみている10人の誰でもない。

 振り返ると死んだあの子の面影のある子供が立っていた。


「大きくなって」


 涙がこぼれた。


「夢で知らない人を何度も見たんだ。僕はその人を母さんと呼んでいた。迷いを晴らそうと巡礼してたけど、見つけた」

「今は幸せに生きているの?」

「うん」

「そう、なら行きなさい。私は一目会えただけで充分。これ以上は良くないわ。あなたもできれば私のことは忘れなさい」

「分かった行くよ。でも忘れない。僕には母さんが二人いるって」


 これで良かったのよ。

 さあ定食屋頑張るわ。

 昔の体力も戻ってきたし、バリバリやるわよ。

 10人いる子供達を立派に育てないとね。

 きっと会わせてくれたのも神様だと思う。


 今まで通りに生きていきましょう。

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