第26話 神の力

Side:ケアレス・リード

 今日は、シナグル魔道具百貨店が開店する初日。

 ポイントカードがまた光った。

 この所頻繁に光る。

 おお、ファンファーレが。

 どうやらポイントが溜まったらしい。

 旧街道の復活で私に感謝してくれている人がたくさんいたのだな。


 私はポイントカードの転移で飛んだ。


 良い店だ。


「おはよう」

「いらっしゃいませ。来店ポイントならあちらです」

「ああ、すまない」


 来店ポイントを貰った。

 ポイントカードが光る。

 なるほど、ポイントが入ると光る仕組みか。

 今まで頻繁に光ったのは感謝の気持ちがポイントとして換算されていたらしい。

 心憎い仕組みだ。


 ポイントが溜まるとシングルキー卿が願いを叶えてくれるらしい。

 店員からそう聞いた。

 何を願うかと言えば、巡礼者の幸福だ。

 行き倒れになる者もいるとか悲しいことだ。

 そういう人を減らしたい、


「シングルキー卿、手数を掛けてすまんな。願いは、ポイントカードみたいに力を与えてくれる何かだ」

「ポイントカードの力に気づいたのか。神力を感じ取れる人がいるとは思わなかった」

「神の力なのか。そうか、今までことが腑に落ちた気がする」

「分かった。神の力を渡そう。ケアレスなら悪用しないだろう。いくつ欲しい」


「そうだな。神像に神の力を宿らせたい。47個くれ」


 硬貨を47枚貰ったので、それを神像の底に貼り付けた。

 巡礼者の無事を祈って。


 帰り道、困ったと嘆く女性の巡礼者が。


「何かお困りかな」

「私、つらい事があって。その最後にと。でも一向に」


 ああ、死ぬつもりだったと。

 神の硬貨のせいで死なずに済んだ。

 余計なことをなぜするのと言われそうだ。


 私にはたぶんこの人は救えない。

 だが、シングルキー卿なら。


「魔道具が欲しいと祈るのだ。つらさを和らげる魔道具がほしいと祈れ」

「ええ。扉が見えます」


「店に入ったらポイントカードを貰え。ポイントが溜まると店主が願いを叶えてくれる。他人から感謝されるとポイントが溜まる」

「ありがとう。生きる気力は湧かないですが、亡くなった人の生き返りを願おうと思います」


 私は、とんでもないことをしてしまったかも。

 シングルキー卿でも生き返りは難しいだろう。

 だが、シングルキー卿なら。

 もし、駄目なら私が責任を取ろう。

 できることは少ないが。


 王都で巡礼するならシナグル魔道具百貨店を最初に訪れろと噂をばら撒いた。

 すまぬ。

 どうしてもつらい人が救われて欲しいのだ。


 しばらくして、またファンファーレが鳴った。


「すまぬ」

「ケアレス、頭を上げてくれ。ただ謝られても困る」


「行き倒れを望んでる巡礼者にポイントを溜めると願いを叶えると言ってしまったのだ。生き返りを望んでいるらしい」

「神の硬貨を使えば出来るが、神が許すかは分からない。その時になったら考えよう。ポイントが溜まったのだろう。願いを言え」

「願いはつらさを和らげる魔道具だ」

「それなら作ったことがある。白昼夢を見せる魔道具だ。夢だが幸せを一時味わえる。今回は一生に一度にしておこう」


 巡礼者の宿に白昼夢の魔道具を設置した。

 夢から覚めた巡礼者は涙を流した。

 残酷なことをしてしまった。


「もう一度」

「順番は守って下さい。それにこれは一生に一回しか出来ません」

「現実はなんて残酷なの」


 私は駄目な男だ。

 人の心を救えない。


「ああ、夢はなぜ覚める」

「あなたもなんですね。私もです」

「こんな魔道具はなくなった方が良い」


 ああ、そうかも知れない。

 だが、一目会いたい人に会いたいと並んでいる人が魔道具を壊すのを阻止した。

 俺は罪深い男だ。


 見せても罪悪感、見せなくても無力感。

 本当に駄目な男だ。


 しかし、白昼夢の魔道具に回数制限が付いていてよかった。

 回数制限がついて無ければ、ここから離れない人が出るところだ。


 しばらくして、またファンファーレが鳴った。

 今度は失敗しない。


 じっくり考えよう。

 不幸の種は色々とある。

 その大半は大事な人に死なれたことだ。


 よく言われるのは、夢で良いから会いたい。

 それは白昼夢で叶えた。


 亡くなった家族から励ましの言葉を貰ったらどうだろうか。


「今回は、亡くなった人からの励ましだ」

「似たような物は作ったからできる」


 シングルキー卿から貰った魔道具を起動する。

 死んだ父上にしっかりしろと言われた。

 涙が出た。


 しっかりしないと。

 この魔道具を設置するのはどうだろうか。

 友であるリプレースに相談してみた。


「全てを救うのは神だってできない。たとえ死人を生き返らせたとしてもいずれはまた死ぬ。際限なく若返りを神に求めてもきっとそっぽを向かれる」

「ほっとくのもつらいし、かりそめの幸福を与えるのもつらい」


「それは分かるが、10人いて1人でも救われたら人として十分じゃないかな。万能な人などいない」

「高望みし過ぎだということだな」

「ああそうだ。夢なら魔道具でなくても見られる。亡くなった人と会うこともあるだろう。だから白昼夢の魔道具は残酷だが、普通にあることだ。気に病まない方が良い。救えなかった人を数えるのではなくて救えた人を数えるのだ」

「いくらか気が楽になったよ」


 救われる人がいるのなら。

 励ましの言葉魔道具を設置した。


「亡くなったあなたの分まで生きます」


 この人は救われた人だな。


「こんなのはまやかしだ。俺は信じないぞ」


 この人は駄目だな。

 だが、その人は何度も励ましの言葉を貰うべく列に並んだ。


「くそっ、まやかしだとは分かっている。だが、頑張って生きるよ」


 回数を掛ければ立ち直れる人もいる。

 救った数だけ数えよう。

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