第25話 旧街道復活
Side:ケアレス・リード
報せを届けるべく今日も走る。
私はケアレス。
貴族だが伝令を職業にしている。
走ると首からぶら下がっているポイントカードが揺れる。
このカードからは心地いい力が出ていて、走る時に体に当たってもうっとうしくない。
それどころか力を貰っているようだ。
シナグル魔道具百貨店はまだ開業してないが、このポイントカードだけでも流行るだろうな。
友が景気がよくなるのは嬉しいことだ。
ふむ、ここから目標の街へ行くには、10年ほど前にできた新しい街道が早い。
だが、ポイントカードが旧街道へ行けと言ったような気がした。
カードの向きでそんな気がしたのだ。
旧街道は、整備が行き届かず、草が生えている。
最近、馬車が通った感じがない。
この街道は役目を終えたのだな。
街道も死ぬのだな。
だが、馬車がいないのはありがたい。
盗賊もいないということだからな。
モンスターはいるが走って振り切れば良い。
急がば回れ。
時間的には速く目的地に着いた。
帰り道も旧街道を通る。
途中、大きな村へ寄った。
いや規模的には街だな。
だが見るからに人影がない。
幽霊都市と呼ぶに相応しい。
「ようこそ」
井戸で水を貰って休んでいたら、老人が現れた。
「すまんな、井戸から水を貰っている」
「今ではほとんど使われていない井戸ですから、ご自由に」
この水のお礼をしたいと思った。
ささやかでも良い何かないか。
「礼をしたい。何かないか?」
「遊んでいる子供の声が聞きたいですな」
声を出す魔道具ならシナグルに頼めば作って貰えるだろう。
だが、たぶん老人は笑顔で落胆して寂し気になるだろう。
私が所有している鉱山の利益をもってすれば、旧街道の整備はできる。
だが、人とは近道を選ぶものだ。
人気のない道をゆっくり行きたいなどと考えるのは、旅道楽している者ぐらいだ。
「承知した。何か手を考えよう」
移住者を募るか。
人が来ない村が好きという変わり者もいるかも知れないからな。
とりあえず王都に戻った。
そして、友であるリプレース卿にこの話をした。
「簡単なことだよ。ひとの流れを呼び込めば良い。新街道は商人が利用しているだろう」
「うむ、その通りだ」
「商人を呼び込むのは不味い手だ。二つの街道で2分されると、半分になってしまう。両方の街道の整備ができなくなり共倒れになるだろうね。それは恨まれる」
「なるほど。商人ではない者を旧街道に呼び込むのだな。ここまで分かればあとは私の頭でも何とかなりそうだ」
「お役に立てて良かったよ」
あの幽霊都市にまた行って、老人を探した。
老人は庭で神像を彫っている。
なかなかの出来栄えだ。
「この前は無理を言って申し訳なかったですな」
「いや良いんだ。ひとを旧街道に呼ぶのは今アイデアが出た」
どんなアイデアかというとこの老人の彫っている神像を祠に収めるのだ。
旧街道の所々に。
巡礼を通らせようというわけだ。
巡礼者は訳ありが多い。
喧噪を嫌う人間が多いと聞いている。
祠の建設費用は私がポケットマネーから出した。
王都の酒場で巡礼街道の話をして回った。
何もしなくてもポイントカードが光る。
なんだろう。
とっても心地いい光だ。
きっと誰かが私に感謝したのを報せたのだな。
幽霊都市に行くと、幽霊都市に人が少し戻っていた。
巡礼相手に宿を始めた者。
食事を提供する者。
だが価格は物凄く安い。
こんなのでやっていけるのかというぐらい安い。
「ご老体、約束は果たしましたぞ」
「確かに。わしの彫った神像を崇めてくれる人がこんなにおられるとは。義賊王配下の方々が旧街道のモンスターを狩ってくださるおかげで巡礼達が安全に行き来できます。有難いことです」
ブルータ殿は一度顔を合わせただけだが、見習わなければいけない御仁だな。
後で何かお礼を差し上げねば。
私も祠を回ってみるか。
走って祠を回る。
祠の周辺はどこも草が抜かれていて、綺麗になっている。
巡礼者が掃除してくれているのだな。
気が付いたが、街道の危なそうな所も修繕されていた。
完璧ではないが、巡礼がこのまま増えれば、街道の修繕は進むのだろうな。
祠には銅貨が置かれている場所もある。
ふむ、祠の管理者も必要だな。
寄付して貰った銅貨で祠の修繕とか将来的にはやったら良いだろう。
私はそこまですることはできない。
業突く張りの教会に頼むのも嫌だ。
祠の守り人を私が雇うか。
それぐらいの散財は願ったり叶ったりだ。
鉱山で儲け過ぎているからな。
馬車が通るには難儀する旧街道を来る商人もいる。
「なぜこちらへ」
「教会の信徒ですからな。この47ある祠の全てにお参りすると幸運が訪れると聞いています。急ぐ旅でもないのでこちらを通りました」
「でどう思う?」
「宿と食事が安いのが良いですな。時間は掛りますが、金は節約できます」
商人にはあまり来て欲しくない。
私は宿と食事を出す者に商人からは普通の価格で提供するように提案した。
組合ができていて、そこの幹部も良いアイデアだと思ったのか。
商人は普通価格になった。
なぜなら、どの教会も富める者は貧しいものに分け与えなさいと言っているからだ。
商人に普通価格でサービスを提供すれば、経営がいくらか楽になる。
巡礼者には今の価格は絶対に維持するらしい。
人によってはただで振る舞うこともあるみたいだ。
金が尽きた巡礼者もいるからだ。
私は旧街道を復活させることに成功したようだ。
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