第20話 来ない明日
Side:サーバン
僕はサーバン。
フーリッシュ侯爵の密偵。
ほんとは使用人なんだけどね。
やんなる。
投げ出したいが、侯爵の恐ろしさは良く知っている。
まあ、殺されないようにやりますか。
指令はまだ届かない。
殺しとかの指令が来たら拒否して逃げるつもり。
ただ、家族が人質同然なんだよな。
「おはよう」
いつも通り、シナグル魔道具百貨店の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
「今日も金はないから買い物はできない」
「では存分に冷かして下さい」
皮肉を言われているんだよな。
でも一回も買い物してないから、嫌な客であることは間違いない。
来店ポイントを貰うと、喫茶店コーナーに行く。
おっかない二人と会った。
ソルとマギナだ。
一撃と殲滅だ。
回れ右したいが、コーヒーが待っている。
あれを飲まないと体が起きた感じがしない。
「おい、冷やかし。たまには何か買ったらどうだ」
一撃から鋭い指摘。
「お構いなく」
「要らない物を買ったってシナグルは喜ばないわよ。あなたよくここに来ているけど仕事は?」
「無職です」
「金がないから魔道具が変えないってか。じゃあ、あたいが職を紹介してやるぜ」
「私がいるのを忘れては困ります。ここは冷やかしさんに決めてもらいましょう」
「そうするか」
僕の二つ名は冷やかしで決まりなのか。
あー、何でもない。
文句を言ったら恐ろしいことになりそうだ。
「僕はなんの仕事をしたら?」
「冒険者ギルドに加入して生活依頼だな。すぐに魔道具が買えるぞ。クズ魔石の魔道具は安いからな」
「あなた、学はあるの。スケートリンクの学校で何か教えてみない」
生活依頼は骨が折れるばかりで実入りが少ないので遠慮したい。
人に教えるほどのスキルは持ってない。
二人を怒らせないように断るには。
「こう見えて僕は掃除やちょっとした修理が得意なんです」
「生活依頼にはそういうのがあるぜ」
「浮浪児達にそういう技術を教えて下さる」
くっ、どっちか選ぶとどっちかが敵になる。
そんな気がする。
下っ端はつらい。
恐ろしくてこの店に来られなくなるじゃないか。
誰か助けて。
少女が二人を恐れずにやってきた。
「お兄さん困っているね」
「そうなんだ、二人の提案がどっちも良くって決めかねている」
少女にいきさつを話した。
「お兄さんの天職は使用人」
えっ、身元がばれているの。
冷や汗が出て来た。
この少女が一番怖いのでは。
「働いたら負けだと思っている」
そう言って僕はコーヒーを淹れてなるべく冷静を装い飲み始めた。
「そういうのをニートっていうんだよ」
少女の言葉がなぜか胸に突き刺さる。
明日から頑張ろう。
うんそうしよう。
永遠に明日は来ないきもするが。
Side:ホロン・フーリッシュ
宮廷魔道具師長であるホロン・フーリッシュである。
崇めたまえ。
俺は偉大だ。
「魔道具師長、王族から注文が入ってます」
「どれどれ」
なぬ、野菜嫌いの子供を治せと。
そんなことできるか。
そんなわがままな子供は叩けば良いんだ。
だが、王族にそんな言葉は吐けない。
そうだ。
ちまたで流行している魔力旨味を使えば。
この粉を野菜に振り掛ければ良いんだ。
そういう指示をしてみた。
お褒めの言葉をいまかいまかと待つ。
「ばかもん!」
料理長に怒られた。
料理長と魔道具師長は同格だ。
何も怒らなくても。
「何か?」
「そんな簡単な事で野菜嫌いが治ったら問題はない。王女から料理長は満足に料理も出来ないのかと怒られたぞ。お前のせいだからな。もちろん王女にはそう伝えた」
くっ、俺が悪いのか。
「そんな子供は叩いてしつければ良いんだ」
言ってやったぞ。
「ほう、今の言葉を王女にも伝えるが良いな」
「好きにしろ」
そして、盛大に大臣から怒られた。
俺は間違ってない。
宮廷雀の貴族たちから俺が無能だという噂を聞いた。
よりによって無能だと。
じゃあ、お前が野菜嫌いを治してみろよ。
治せるものなら治してみろ。
賞金として金貨100枚だしてやる。
そう吹聴した。
あの憎たらしい料理長がやってきた。
「野菜嫌いを治したぞ。金貨100枚だせ」
「どうやって?」
「シナグル魔道具百貨店に弟子が行ってな。ジュサ―ミキサーなる物を手に入れた。この魔道具に掛けると野菜も果物も飲み物だ。砂糖を少し入れてやれば、ごくごく美味そうに飲んでくれる」
くそっ、シナグルの名前をここで聞くとは。
ジューサーミキサーだって。
そんな物を作りやがって。
俺の評判は地に落ちた。
代わりに上がったのはシナグルの野郎。
やっぱり元宮廷魔道具師長なだけはあると。
歴代最強なんじゃないかとさえ言われている。
ファットからはあまり使えないようだと更迭するぞと脅された。
俺が何をしたっていうんだ。
子供をしつけろと言っただけじゃないか。
くそっ、愛人を呼んでストレスを発散しよう。
今日は眠らない。
シナグルの野郎がなんだ。
王族がなんだ。
喚きながらいちやいちゃした。
愛人は若干引いているが構うもんか。
そういうのを何も言わないで慰めるのが愛人の仕事だ。
みんな仕事しろ。
部下が無能だと困る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます