第19話 オーク討伐

Side:バッド


 浮浪児にも出来る魔力結晶がどうしてもできない。

 このままだと俺は浮浪児以下だと認めないといけない。

 奴隷冒険者になる前は俺はEランク冒険者だった。

 短気な性格が災いしてどうしても一番に突っ込んでしまう。

 技術があればいいががむしゃらだけが取り柄だ。

 それで治療費が嵩んで奴隷落ちした。


 農家出身なんてこのなものだ。

 持っているスキルも掘削。

 穴を掘るだけのスキルで何をしろと。


 便利スキルではあるけど活躍の場は限られている。

 まあ奴隷冒険者になる奴はみんなこんなものだ。


 俺は駄目だと分かっていなかった。

 できると思っていた。

 浮浪児に転がされて、学校に来て、自分の馬鹿さ加減が嫌になった。


 魔力結晶、それだけならまだ良い。

 数学も、文章も、浮浪児以下だ。

 打ちのめされた。


 短気な性格はまだ良い。

 俺は馬鹿だった。

 馬鹿なのが奴隷落ちの原因だった。

 そう悟った。


 自由時間になると文字を書き、九九を唱え、魔力結晶の訓練をした。

 だが、できない。

 なにひとつ、浮浪児達みたいに出来ない。

 不器用なんだな。


 夜遅くまで起きて魔力結晶の訓練をしてたら、ボスがやって来た。


「根を詰め過ぎないことね。昼間眠いと集中力が欠けるわ」

「明日、オークにリベンジですよね。そのためにも魔力結晶を物にしたい。どうしても会得したい」


「分かったわ。私も付き合う」

「ボスって優しいですよね」

「いいえ、これはいわば投資よ。奴隷が凄腕になれば稼いでくれる。それにその育成過程はノウハウとして私に残る。私の夢は100人を超える奴隷を使うことよ」

「でも優しいです。感謝してます」


「さあ、ぼやぼやしてたら夜が明けるわ。魔力結晶の何が分からないの?」


 ボスが照れ隠しして早口でそう言った。

 可愛いな。


「魔力を動かないようにさせるって感覚が掴めなくて」

「要は魔力を大人しくさせれば良いのよ」


 ええと、大人しくさせて眠らせたら良いのかな。


「良い子の魔力よ♪ 眠れ、健やかに眠れ♪」

「ぷはははっ、歌を歌ってどうするのよ」


 今、キラキラした物が出た気がする。

 見間違い?

 いいや確かに出た。


「良い子の魔力よ♪ 眠れ、健やかに眠れ♪ やった出ましたよ」


 ほんの少しだけど出たことには間違いない。


「これであなたもゴブリン級魔法使いよ。でもオークの足元にこれを作って滑らすほどじゃないわよね」

「良いんです。自信が戻ってきました。俺はできる、できるんだ」

「夜中だから騒がない。さあ、寝て明日に備えるわよ」


 次の日。

 何でもできる気がした。

 餌を撒いてオークをおびき出す。


 来たな。


「みんな気を付けて」

「おうやるぞ」

「リベンジよ。見てなさい」

「今回は必ず」

「やってやる」

「やるしかない」


 俺は考えた。

 ころがすなら掘削スキルで良いかなと。


「任せろ【掘削】」


 オークの片足はズボっと穴に嵌った。


「バッド、ナイス」


 オークは体勢が悪く思うがままに動けない。


「【掘削】【掘削】【掘削】」


 穴をさらに深くした。

 穴から片足を抜き取ろうともがくオーク。

 仲間が切りつけてその隙を与えない。


 俺は慎重にオークの隙を窺った。

 今だ。

 棍棒のカードが下がった。

 剣をオークの首に突き入れる。

 剣は深くオークの首に刺さった。


 オークは棍棒を落とす。

 そこからはタコ殴りだった。

 やった。

 Eランクぐらいの俺達がCランクモンスターのオークを倒せた。


「これでいい気になったら駄目よ。今回は運よく足を穴に嵌めたけど、毎回こう上手くは行かないわ。でもよくやった。褒美に大銀貨1枚ずつ支給する」

「ボスはやっぱり優しい」

「ほんとよね」


「褒めてもこれ以上は出ないわよ。さあ持てるだけオークの素材を持ち帰るわよ」


 重たいオークの肉を担いで帰り道、全然重さが苦にならなかった。

 オーク肉を村で売り、俺達は自由時間になった。

 俺はシナグル魔道具百貨店前に転移。

 来店ポイントを貰うと、スケートリンクの学校に向かって駆けだした。


 努力することを忘れてた。

 工夫することも。


 奴隷落ちする前に、このことに気づいていれば。

 たらればを言っても仕方ない。

 子守歌を歌っての魔力結晶作りは浮浪児達に笑われた。

 でも別に気にしない。


 続いての水球作成。


「魔力さん水を集めて来て♪お願い♪」


 そう歌った。

 水球ができた。

 俺って天才。


 次のステップの火では歌ったが駄目だった。

 馬鹿だから酸素ってものが理解できない。

 ゴブリンソルジャー級魔法使い、それが俺の現在地だ。

 腐らない。

 できるようになるまでやる。

 それだけだ。

 笑われたとしても何とか俺なりの方法を編み出すんだ。


 夜遅く訓練してたら、やっぱりボスがきた。


「火が出せないのね。何が分からないの」

「ええと酸素が分からない」

「風を送ると火は激しく燃えるわよね。あれよあれ」

「魔力さん燃える物になって、点火♪ ふうふう♪」


 やった、できた。

 ふうふうすれば良いんだな。


「4属性全てできたらお祝いにステーキ奢るわよ」

「ごちになります」


 やっぱりボスは優しい。

 後で彼氏がいないか聞いてみよう。

 いたらすねてやる。

 いいや、これからの俺は違うぞ。

 彼氏がいたら、略奪愛をするために創意工夫、知力で勝負だ。

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