第18話 知力の凄さ

Side:マニーマイン


 今日の討伐はオーク退治。

 ただ撃退で良いという依頼。

 痛い目に遭わせるとモンスターはその場所から離れることが多い。

 だから撃退。

 依頼料はその分安くなる。


 駆け出しの実力ではオークはつらい。

 だけど、撃退なら駆け出しでもなんとかなる。

 それでも、かなりきついけど。


 切り札ならあるけど。


「ふごふご、ぷぎぃ」


 餌に釣られてオークが現れた。


「さあ、やりなさい」


 バッドが切り込み隊長よろしく、剣を持って突撃。

 斬撃はオークの棍棒で払われた。


 ソー、ヤーカ、キューズ、ルードがオークの足に斬りつける。

 だけど、オークは棍棒で応戦。

 足を狙うという魂胆を見抜かれたのか、難なくいなされた。


「ぷぎいっ!」


 大技が来る。

 私は大急ぎで奴隷達の襟首を掴み、後退させた。


 オークの振り下ろしで、地面に小さなクレーターができる。

 奴隷達は腰を抜かした。

 駄目ね。


「退却!」


 ポイントカードでシナグル魔道具百貨店前に転移する。

 腰を抜かした奴隷達を落ち着かせ、立たせた。

 奴隷達は百貨店の扉を潜ってやっと生きた心地がしたみたい。


 怖かったと口々に言っている。


「ここで休憩よ」

「やった」


 喫茶店コーナーで椅子に座り考える。

 このままだと彼らは死ぬ。

 今日は運が良かっただけ。

 奴隷達は能天気だ。

 嬉しそうにはしゃいでる。

 もっとも、これで討伐を嫌がるようなら、非情な決断をしないといけなくなる。

 それはしたくない。


「マスターは何で私達に優しいんですか?」


 ソーが尋ねてた。


「効率が良いからよ。優しいからじゃない。これが儲かるって考えているから。奴隷が死んだら大損よね」

「そうなんですか」

「ええ、長く効率よく搾り取る。そのためよ。幻滅した?」

「いいえ、動機はなんであれ。私達が酷い境遇でないのは嬉しいです。感謝してます」


「感謝するなら生き残りなさい。それが私を儲けさせることであり恩返しよ」

「はい、マスター」


 奴隷達が話し合いを始めた。


「確かに誰にとっても死ぬのは上手くないな」

「ええ、でも今のままじゃ危ない」

「そうそう、ポイントカードが無かったら死んでる」


「お兄さんお姉さん達、深刻そうだね」


 浮浪児が会話に入ってきた。


「ガキがなんの用だ」

「すべてを解決するのは知力なんだよ。知ってた?」


「バッド、睨まないで。この子の言う通り、私達には知力が足りてない」

「まあな、そうかもな。じゃあ、ガキ。お前ならオークをどうやって撃退する?」


「撃退なら簡単だ。こうやるの」


 浮浪児の手からキラキラする物が放たれた。

 魔力結晶ね。

 バッドの立っていた床はツルツルになった。

 バッドが転がる。


「がはは、凄いぞ。こいつは傑作だ。俺は浮浪児以下ってことか」


 バッドが怒らずに笑う。

 短気だけど実力がある者は認める性格なのよね。


「どう、簡単でしょ」

「坊主、どうやったらその技を使える」

「スケートリンクの学校に入れば良いよ。一日に銅貨10枚で授業が受けられる」


「奴隷に支給されている小遣いで通えるな。ボス、通っても良いか」

「自由時間なら別に構わないわ」


 それにしてもバッドが学校に通いたいなんて言うとは。

 5人とも学校に通うことになった。

 私も一緒についていく。

 授業内容は数学、文章、魔法の3つ。

 先生はどれも浮浪児がやっている。


 マギナは凄いわね。

 こんなシステムを作るなんて。

 私にはできないわ。


 浮浪児は30人ほどいて学んでる。

 5人の面倒をみるのに手一杯な私とは違う。

 Sランクの底力を見た気がする。


 数学は掛け算まで必要はないのでパス。

 文章も依頼票を読むぐらいはできるのでパス。

 私にとっての未知の分野は魔法ね。


「いいか。自分の中にある魔力を掌握しろ。そして魔力の動きを止めて捻り出せ。こんな具合に」


 魔力結晶が放たれる。

 コツは魔力を大人しくさせることね。

 大人しくさせて固まらせるのね。


「むむむ」


 できたみたい。

 意外に簡単。

 まあ、魔力はスキルを使う時に制御しているから慣れたものよ。

 大人しくさせるぐらいわけない。


「魔力結晶ができた人は、ステップ2にどうぞ。ただし言っておく。一流の魔法使いがドラゴンだとすると、魔力結晶が出せる人はゴブリン。全然、凄くない」


 浮浪児がそう言った。

 ステップ2に行くと、別の浮浪児が教えてた。


「魔力放出と魔力操作はできるようなので、今度は魔力を現象に変換します。こうですね」


 浮浪児の突き出した手の先に水球が現れた。


 こうかしら。

 真似してやってみる。

 難しい。


「いいですか。水を操るには水が何か理解していなければなりません。スキルでもあれば別ですが」

「水は水じゃない」


「水は凍ると氷になって、熱すると水蒸気になって空気に溶けます」


 私の漏らした言葉に浮浪児が説明をした。

 空気に溶けているのか。

 放出した魔力に水を集めさせたら良いのね。


「むむむ、できた」


 どうやら私は魔法が向いているようね。


「できた人がいますね。でもこれができても魔法使いとしてはゴブリンソルジャーぐらいです。空気中に水が溶けているのを理解したに過ぎません。真理は奥深いのです。水の真理だとてこれだけではありません」


 知力って凄いのね。

 今まで知力がこんなに凄いなんて知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る