第17話 優しい奴隷主

Side:マニーマイン


 私はマニーマイン。

 シナグルの幼馴染で、シナグルの初恋の相手。

 シナグルはあれは恋じゃなかったと言っているけど、私としてはシナグルの初恋だと思っている。

 まあ過去のことは良いわ。

 過去にはこだわらない、今を生きるのみ。


 私の経歴をざっと説明すると、シナグルと同じ村で15歳まで育った。

 そして、銀色の閃光にシナグルと共に入ったわ。

 色々あってシナグルは追放されて、それから破竹の勢いでAランクまで上り詰めて、Sランクも目前になった。

 でも、それは私達の力ではなかった。

 シナグルの援助があったから。

 シナグルを振ることになった私は、援助を打ち切られた。

 そして、私達は落ちぶれて、奴隷冒険者になった。


 そして、奴隷から抜け出して、しばらく奴隷の面倒をみていたわ。

 それが今じゃ奴隷主。


 奴隷冒険者なんてのは年季奉公の傭兵と変わりない。

 ただ、かなり厳しいだけ。


 でもうちは体罰は禁止で、装備も充実、食事もけっこういい物を食わせている。

 装備とか食事の代金は、奴隷の借金に付けているから私は損をしない。

 死なれない限りは。

 だから死なれないように手厚く面倒をみている。


 普通の奴隷主は、奴隷冒険者を消耗品としてみてる。

 酷い体罰に、粗末な装備と食事。

 死なれても別に構わないというスタンスだ。


 私は何も人情で手厚くしているわけではない。

 だって死なれたら損じゃない。

 奴隷冒険者の全員が利益を出した方が儲かるのは言うまでもない。

 私も儲かるし、奴隷も辛くなくて嬉しいはず。


 奴隷主としては私は異端だけど、これで儲けをたくさん出せば、他の奴隷主も私の方式に変えるはず。

 そうすれば奴隷の待遇改善につながるわ。

 こういう方法を思いついたのは、愛しているシナグルをみて勉強したのよ。

 優しさの好循環ていうのかな。

 そういう感じ。

 その力を信じてみようかなと思っている。


「マスター、揃いました」


 奴隷が報告した。

 私が抱えている奴隷冒険者は全て駆け出し。

 借金の額が少なくて購入するのが安いから。

 金貨5枚ほどの借金で奴隷になった者もいる。


 さて、みんなを集めたのは。


「みんな、魔道具がただで欲しくない?」

「ただでもらえたらそれを売って借金が減ります。奴隷解放の期間が短縮されます」

「俺は解放されるかも」

「私も」


「そういう上手い話があるのよね。ただ、その場所に行くには、思いの強さってのが要るのよ。さあ、扉が現れるまで一心不乱に魔道具が欲しいと念じなさい」

「はい」

「おう」

「分かりました」

「了解」

「諾」


 祈り始めて、すぐに効果が表れた。


「見えた」

「俺も」

「見えない」

「俺も駄目だ」

「くそっ」


 5人中2人ね。

 まあ、仕方ない。

 今回は2人だけ連れて行きましょう。

 後の3人は行った先の話を聞けばきっと羨ましくなって、そのうち扉が現れるわよ。


 扉が見えた、そばかす少女のソーと、生傷男のバッドを連れて扉を潜る。

 出た先は初めて行ったシナグル魔道具百貨店。

 整頓されて、掃除の行き届いた店内。

 立派な店ね。


「いらっしゃいませ」


 女性店員が迎えてくれた。


「魔道具は要らないわ。この二人にポイントカードを渡して」

「はい。どうぞ」


 ソーとバッドがカードを受け取る。


「マスターこれは?」

「私も初めて来たから詳しくは知らないけど。たしか一日に一回、来店ポイントがもらえるのよね。それと転移して、いつでもこの店に来られる」

「ご来店ポイントの魔道具へご案内します」


 店員に連れられてきた魔道具にポイントカードを置く。

 ポイントカードが光った。

 不思議な光ね。

 店内は明るいのに光がはっきりと感じられた。

 普通の光じゃないのかも。


 手の甲に張り付いた神のコインから暖かい何かが体に入った気がした。

 神のコインと関係あるのかもね。


「マニーマインお姉ちゃん、良い事教えてあげる。善行を積むとポイントがもらえるの」

「ありがと」


 マニーマインの首にぶら下がっているポイントカードが光った。

 こうやってポイントを稼ぐのね。


 魔道具を見て回り、喫茶店コーナーで休む。


「ここにこれたご褒美よ。クッキーとお茶を奢ってあげるわ」

「ありがとうございます」

「サンキューボス」


 私のポイントカードが僅かに光った。

 チョロいわね。

 奴隷の待遇を良くしたら自然にポイントが溜まりそう。


 女性店員が見回りにきた。

 バッドが進み出る。

 なにっ、愛の告白。

 バッドやるわね。


 さあ、一目見て好きになりましたって言うのよ。

 赤い顔して、噛み噛みの台詞でよ。


「あっ、あの」


 さあ、どんと行きなさい。


「何でしょうか?」

「仲間がいるんです。ポイントカードを3枚頂けませんか」

「それは、ちょっと」


 何よ、愛の告白じやなかった。

 つまんないわ。

 でも善行を稼ぐには良いかも。


「マニーマインがお願いしたって、店長に言ってみて、駄目なら、幼い時の恥ずかしい話を広めてやるってと言うのよ」

「かしこまりました。恥ずかしい話はこそっと後で教えて下さい」


 店員が行ってしばらくしてシナグルが現れた。


「そういう反則の話を持ち出すなら、俺はマニーマインの恥ずかしい話をするぞ」

「構わないわ。羞恥心など奴隷になった時に捨てたわ」

「くっ、守る物がない者の強みか。降参だ。クラリッサ、3枚渡してやれ」

「はい」


 そろそろ帰りましょう。

 宿に戻ると、留守番のユーカ、キューズ、ルードが待っていた。


「もう念じる必要はないわよ。ポイントカードが手に入ったから、バッド渡してやって」

「おう」


 バッドと私のポイントカードが光る。

 あの店が奴隷達の息抜きになったら良いわね。

 私は裏切られる危険性が減るし、奴隷は嬉しいし、シナグルもきっと嬉しいと思う。

 良い事尽くめだわ。

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