第15話 疫病
Side:ピュアンナ
「俺に触るな!」
シナグル魔道具百貨店にポイントカードで現れた村人が叫ぶ。
ただならない様子だ。
「落ち着いて。何があったんですか」
クラリッサが平坦な声で落ち着かせに掛かる。
「疫病だ! お願いだ! 村を助けてくれ!」
大変。
治療用の魔道具は高い。
でもこういう事態ならシナグルはただで魔道具を渡すでしょう。
「店長」
「話は聞こえた。治療師ギルドとの取り決めで安く魔道具は譲れない。だからその代金は俺が出そう」
シナグルならそう言うと思ったけど、治療師ギルドとの取り決めは上手くないわね。
シナグルが代金を出したというのは通じないと思う。
どこのギルドもそういうことには厳しい。
「私が出すわ」
私が名乗り出た。
「ちっ、先を越されたぜ」
「ええ、私も」
「私も」
ソルとマギナとスイータリアが悔しがっている。
こういうのは迷ったら駄目なのよ。
「ピュアンナ、何も君が出さなくても」
「いいえ、あの村人にこの店を紹介したのは私。責任の一端があるわ」
「金はあるのか」
「あるわ」
結婚資金として貯めておいたものが。
いいのよ、お金はまた貯めれば良い。
「ララララー♪ララ♪ララーラ♪ラララー♪ラララ♪、ララーラ♪ラ♪ラーラー♪ラーラーラー♪ララララー♪ララー♪ララーララ♪と。これで良いな。もって行け」
シナグルが魔道具を瞬く間に作った。
「ありがとう」
「礼ならピュアンナに言え」
「ピュアンナさん、ありがとう」
あー、結婚資金。
ちょっとだけ後悔。
でもこれでいいのよ。
仕事する気になれなくて喫茶店コーナーでさぼる。
名目は村人に更なる何かがあった時にすぐに対応できるように待機だけど。
光り始めるポイントカード。
光は止まらない。
病気の人が次々に助かったのね。
この光がちょっとだけした後悔の念を吹き飛ばした。
ファンファーレが鳴った。
ポイントが溜まったみたい。
後悔なんかさっぱりとなくなった。
シナグルに何を願おう。
やっぱり結婚資金は返して。
あれは痛すぎる。
「ピュアンナ、お願いは何にする」
「さっき払ったお金を返して」
「それで良いのか」
「感謝のポイントは村人のもの。それで結局のところ治療の魔道具が手に入ったのだから、帳尻は合うわ」
「得をした者は誰もいない。損をした者もな」
さっき魔道具を持って行った村人がまたやって来た。
今度は笑顔だった。
「ありがとう、村は助かったよ。近隣の村にも広がっていたから、大勢の人が救われた。本当にありがとう」
私のポイントカードはまだ光り続けているのに気づいた。
再び鳴るファンファーレ。
「嘘、私がこんなに得していいの。シナグルなんてちっとも得をしてないじゃない」
「いいや、俺は村人の笑顔で十分だ。もともとポイントカードの善行ポイントは慈善のためにやっている。損得とか考えられない」
こういう男だったわね。
「お願いは、大勢に声を届ける魔道具よ」
「ラジオ局にラジオ受信機ね。できると思うよ。ララーラ♪ララー♪ラーララ♪ララ♪ラーラーラー♪、ラララ♪ラー♪ララー♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪、ほらできた。受信機の歌はララーラ♪ララー♪ラーララ♪ララ♪ラーラーラー♪だな。受信機の歌は特許をギルドに寄付するから好きに作らせろ」
ラジオ局と呼んだ魔道具は突き出た棒があってそれに向かって喋るらしい。
試しにやってみる。
「私はピュアンナ」
「私はピュアンナ」
私の声が四角い箱のラジオ受信機から聞こえた。
「声を届けるなら。念話か通信魔法だけど、違うのよね。どういう仕組み?」
マギナがラジオに興味を持ったらしい。
原理を尋ねている。
「念話と通信魔法は魔力を飛ばしているんだろう」
「ええ、遠くに飛ばすにはかなり魔力が要るわね。それに魔力は妨害される」
「ラジオは声を電波にして飛ばすんだ」
「電波って電磁波よね」
「まあな」
「ラジオ受信機を作るには、電磁波について知らないと出来ないでしょう。意味があるの?」
「そのうちマニュアルを書くよ。振幅変調についても知らないといけないしな」
「ええ、マニュアルは読ませてもらうわ。しかし、ラジオ局は盗まれないかしら。軍事に使えそうな技術だし」
「例のコインが入っている。防御力は今までの色々で証明されているから心配ない」
「なら良いけど」
ポイントカードの光が止まった。
さすがに三度目はなかったらしい。
でも良いの。
これで十分。
十分過ぎるぐらい。
ラジオで何を発信すればいいかしら。
シナグル魔道具百貨店の宣伝はいれるとして、無難なところでは歌ね。
もしかして私が歌わないといけないの。
仕方ない。
スイータリアちゃんに頼もう。
魔道具人形に歌わせれば良い。
スイータリアは10体の歌う魔道具人形を持っているから当分は大丈夫なはず。
ラジオ受信機の歌を貰ってギルドに帰ると。
「疫病を止めたんだってな。子爵様からお褒めの言葉を通信魔法で頂いたぞ」
ギルドマスターが少し興奮気味だ。
そんな大層なことをしなかったのに。
「ラジオ受信機の歌を貰ってきました」
「もう、ピュアンナ君がギルドマスターでもいいんじゃないか。いや、グランドマスターも務まるかも」
「冗談ですよね」
「わりと本気だ」
「私なんかまだまだです。シナグルのおこぼれで功績を貰ったようなもの」
「人脈も力だ。癒着は不味いが、密着は構わない。色っぽい意味でねんごろになるのなら構わないぞ」
「ギルドマスター!」
もう、シナグルを好きだと知って、からかって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます