第14話 寒村支援

Side:ピュアンナ


「シングルキー卿が寄付してくれた特許の収益がかなりの額になった」


 ギルドマスターからそう言われた。


「1個あたり銅貨1枚ですけどね。数が凄いから頷ける話です。明るさ調整付き灯り、生水、点火、温め、ブラッシング、他にもたくさんありますからね」

「収益はシングルキー卿が喜ぶようなことに使いたい。何か良い案はないか?」

「それなら、寒村に魔道具をただで届けるというのはどうでしょう」

「良い案だ。魔道具の普及にもつながる」


 私は、明るさ調整付き灯り、生水、点火の魔道具を寒村に送るべく手続きを始めた。


「ハリー村へ行ってくれるそうね」

「ああ、あの治癒の魔道具が祀られている」

「ええ」

「はい、行商ルートですから、行きますよ。途中の村へも寄ります」

「他には?」

「反転の盾がある。ヤンク村ルートへも行きます」

「じゃあ、そこもお願い」


 行商人に配送を頼んだ。


「ええと、あなた達冒険者パーティは、ラージアントの巣の近くの、ヒュージ村へ行ってくれるのよね」

「おうよ」

「途中の村へも寄る?」

「寄るよ。徒歩だからな。村へは寄らないと」

「荷物になるけど平気?」

「行きはほとんど荷物がないからな。帰りはラージアントの鎧を担がないといけない」

「じゃあお願いね」


 冒険者にも頼んだ。


 この魔道具は壊れたら修理できますというような説明書きを添えて荷造りした。

 説明書きを書くのも魔道具がやってくれる。

 魔道具の名前はプリンターだったわよね。

 本当に便利。

 シナグルは魔道具の神ね。


 しばらくして、何もしてなにいのにポイントカードが光り始めた。

 魔道具が村へ届いたらしい。


 確かに私の名前で発送したけど感謝の気持ちを私が受け取っていいのかしら。

 ちょっと後ろめたい。


 ある日、村人が私の下に訪ねてきた。


「魔道具をありがとう」

「いいえ、お礼を言うなら別の人に」

「日持ちする野菜を持ってきたんだが。今がちょうど食べごろだよ」

「ではその人の所に案内します」


 シナグル魔道具百貨店に案内した。


「クラリッサ、農家から差し入れ。シナグルに届けて、食べ頃らしいから」

「何か買っていった方がいいのかな」


 村人が尋ねた。


「クズ魔石から作った魔道具なら安いのがありますよ」


 そう教えてあげた。


「ならお土産に何か買っていくよ」

「クラリッサ、案内よろしくね」

「かしこまりました」


 喫茶店コーナーで休みを取っていたら、村人がお礼にきた。


「良い店を紹介してくれてありがとうございます。ポイントカードを使えば、村からの買い出しが楽になります」

「行商人の人の迷惑にならない程度にしておいてね」

「ええ、行商人に来てもらえなくなると、ポイントカードが使えなくなった時に困りますから」


 噂が広まったのか、村人が何週間も掛けてお礼にくるようになった。

 シナグル魔道具百貨店に案内するのはもちろん。

 他の安い店も紹介してあげた。


 行商人はどうしたかというと文句を言っても仕方ないので、ポイントカードを貰ってこの街を拠点にした。

 ポイントカードを収納魔道具代わりに使うことにしたようだ。

 手ぶらで旅、転移でいつでも自分の店に帰ってこられる。

 輸送コストも下がるし、売り切れはないし、いいことだらけ。


 行商人もシナグル魔道具百貨店を贔屓にするようになった。

 知っている行商人が井戸で水を汲むとポイントカードで転移してる。


「どうしたの?」

「井戸が枯れたっていうから水を運んでる。一樽、銅貨1枚で」

「手間賃にもならないでしょう」

「善行ポイントが溜まるから、そのうちお釣りが来るさ。ポイントが溜まったら収納魔道具を作ってもらうつもりだ」

「そうがんばってね」


 収納魔道具は金貨1000枚はする。

 一流の商人の証だと言っても良い。

 水汲みでそれが手に入ればありなのかも。


 彼らも逞しいわね。


「あー、他の奴らをポイントカードで連れて来られたらな」


 シナグル百貨店に行くと前に案内した村人がぼやいている。


「どうしたの?」

「街の美味い物を食わせてやりたくってよ。ポイントカードで運んでも大抵は冷えちまう」

「シナグルが作った温め魔道具なら出来立ての温かさになるわ」

「よし、買って帰るぞ」

「クズ魔石のバージョンもあるから安く手に入るわよ」

「ありがとう」


 私のポイントカードほんのりと光った。

 喫茶店コーナーで休む。

 ソルとマギナとマニーマインとスイータリアが揃っている。

 みんな暇ね。

 ちょくちょく来る私が言うことじゃないか。


「あたいが作ってもらいたい魔道具は子沢山だ」

「私は神に質問できる魔道具。真理を聞いてみたいわ」

「私は幸せの魔道具かな。使ったら幸せになれる奴」

「私は魔道具でなくてチョコレート馬車一つ分」

「私は遠くまで声を届けられる魔道具ね。シナグル魔道具百貨店を宣伝したいわ」


「良い子ちゃんだな」


 ソルが私の意見に難癖をつけた。


「下品なのに比べればましよ」

「子沢山のどこが下品だ。子沢山は誇らしいことだぞ」

「ふっ、真理に比べたらどれも下らないわ」


「何おう」

「何よ」

「みんな喧嘩しないで」


 スイータリアが仲裁に入った。


「こんなのは喧嘩って呼ばないわ。表に出ろ、勝負よ」


 マニーマイン、弱いのに、粋がっちゃって。


「喧嘩すると出入り禁止にするぞ」


 シナグルが来たので収まった。

 他人がどんなお願いをしようが関係ないわ。

 自分のポイントとお願いに関係あるわけじゃないし。

 みんな馬鹿ね。

 シナグル魔道具百貨店を宣伝して、シナグルの好感度を上げるのよ。

 魔道具の普及の私の夢が叶って、シナグルも儲かる、好感度が上がる。

 一石三鳥よ。

 これが至高のお願いなのは間違いない。

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