第13話 右の歌
Side:ピュアンナ
くぅ。
朝起きて、上体を起こし大きく伸びをした。
快適で爽快な目覚め。
肌の調子も良い。
ソルさんの為に開発された安眠魔道具だけど、睡眠に問題ない私が使うと、さらに快適な眠りになる。
私も早くポイントを溜めて、何かシナグルに魔道具を作ってもらいましょう。
私は魔道具ギルドに受付嬢として勤めているピュアンナ。
魔道具ギルドでは主任受付嬢の肩書も持っている。
正式な肩書ではないけどシナグル対応員の肩書もある。
グランドギルドマスターから頼まれていて、ギルドマスターと同等の権利を保障すると言われてる。
権利は滅多に使えないけど必要な所では容赦なく使うつもり。
先日は、ファット・フーリッシュの策謀を阻止したわ。
今頃在庫の山に埋もれているに違いない。
ざまぁみろですね。
てきぱきと朝食や朝の支度を終え、魔道具ギルドに出勤。
出勤すると最初にする仕事は、新しい魔道具が登録されてないかのチェック。
このチェックは暇の時に時間潰しのためにもやる。
これをしてたから、策謀を阻止できたの。
新しい魔道具は。
右の魔道具。
右の魔道具って、物を右に動かすだけのようね。
「ちょっと、右の魔道具が登録されているけど」
特許登録の職員を呼び止めた。
「それですか。灯りの歌を弄ったらできたらしいですよ」
「売れそうなの?」
「物作りの工房で使われてます」
「そうなの」
「一人が物の一部分を作ってこの魔道具を起動すると、作った物が隣に行きます」
「手渡しすれば済みそうなのに」
「でも時間を測ったら、大幅に時間を短縮できたようですよ」
立ち上がってだと確かに時間が掛かりそう。
椅子から立ち上がって、隣に渡して戻って来る。
何秒か掛かる。
机の上で滑らすのでは、力加減が難しいわね。
魔道具ならちょうど良い距離だけ移動できるわ。
灯りから右の魔道具ができるなんて不思議ね。
シナグルは知っていたのかしら。
彼なら知ってても不思議じゃない。
報せに行こうかしら。
そうしましょう。
シナグル魔道具百貨店に入る。
「ピュアンナさん、いらっしゃい」
「おはよう、クラリッサ。今日も美人ね」
「何を言うんですか。ピュアンナさんほどじゃありません」
「好みなんて男性によって違うから、クラリッサの方が美人だという方もいるわよ」
「そうですかね」
「おはよう」
シナグルが来た。
「おはよう。灯りの魔道具から右の魔道具の歌ができたんだけど」
「ああ、一文字違うだけだからな」
「やっぱり知ってたのね」
「右の魔道具か。何に使うんだ?」
「物を大量に作る工房で使うらしいわ」
「ああ、一工程を作るとボタンを押して流れ作業するあれね。思いつかなかったよ。右の歌ね」
百貨店ができる前は休み時間にハグタイムがあったのに、廃止されているのが恨めしい。
シナグルの体温を体で感じたいわ。
せっかくきたので、来店ポイントを貰い。
喫茶店コーナーでお茶をする。
コーヒーというお茶があるので試してみたわ。
砂糖とミルクをお好みでと書いてあるけど、お茶本来の味を味わいたいから何も入れずに飲んだ。
ほのかな苦みが良いわね。
子供の頃は甘いものが大好物だったけど、今では苦い物も辛い物もいける。
歳を取ったってことなのかしら。
灯りの歌から何か別の歌が他にも出来ないかしら。
魔道具の歌の開発は難しい。
イメージと歌である呪文が合ってないといけないから。
右の歌で灯りをイメージして作ると当然失敗する。
例えば右の魔道具。
灯りの呪文を変えて、どう効果をイメージしたら良いか分からなかったから、とにかく動けってやったらできたみたい。
こんな偶然めったにないわ。
魔道具大学では懸命に歌を作り出そうとしているみたいだけど成果がない。
シナグルの偉大さが際立つわね。
さすが私が好きになった男。
ええと、灯りの魔道具の最初の一節は『ララーララ♪』、右の魔道具は『ララーラ♪』。
では『ララララ♪』に変えたら。
シナグルがやって来て私が書いた歌を覗き込む。
「高さだな」
「えっ、私の作った歌は高さなの。高さが測れる歌」
「そうだな」
「特許料は半分ずつにする?」
「要らないさ。ピュアンナの好きにすると良い」
私はギルドに帰ると、さっそく高さの歌の特許登録をしたわ。
特許権は魔道具ギルドに寄付したけど、勿体なかったかしら。
ううん、私の夢は魔道具が大勢に広まること。
高さを測る魔道具は活躍しそう。
建築現場、身体測定、測量。
考えただけで便利だわ。
「良くやった」
ギルドマスターから褒められました。
「半分はシナグルの功績ですけど」
「それでもよくやった。魔道具が一歩さらなる発展を遂げた。ただの一歩だが、確実に進んだことは間違いない」
「そう言って貰えるとありがたいです」
とうぶん、仕事を抜け出してシナグルに会いに行っても何も言われないわね。
上からも下からもね。
灯りの魔道具の歌を変えて、まだまだ別の物が作れそう。
魔道具大学に研究するように送るべきなんだろうけど、教授にはニード・フーリッシュがいるのよね。
彼に敵対しているアメジク教授に手紙を送りましょう。
きっと成果を出してくれるはず。
今回の特許の寄付で善行ポイントがかなり溜まったみたい。
かなりの明るさの光だったわ。
魔道具に関する善行はポイントが高いのかしら。
あとでみんなにも教えましょう。
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