第12話 策謀の数々

Side:ファット・フーリッシュ


 俺はシナグルを敵だと思っているファット・フーリッシュ。

 いつも策謀を巡らしている男だ。


「たいへんです。灯りの魔道具の新しい歌が登録されました」


 側近が血相を変えて報告に来た。


「何だと。なぜそんなことになるのだ」

「新しい歌は上位互換。魔道具ギルドも登録するにふさわしいと言ってます」


「ぐぬぬ。魔道具職人に金をばら撒いて、圧力を掛けさせろ」

「それが、灯りの魔道具を安く買いたたいて、その時の借金があってどうにもなりません。うちの財政は破産寸前です」


「なんだと。なんとかしろ」

「いまや古い灯りの魔道具はゴミ。恐らく大銅貨数枚の価値しかないかと」


「構わん。安く売り捌いて、当座の資金を確保しろ」


 新しい灯りの歌は明るさ調整機能付き。

 俺の灯りの魔道具はもはや無用の長物。

 倉庫は不良在庫の山。


 ここは、何とか魔道具職人を抱き込んで圧力を。

 いいや、無理筋だな。

 流れがどうも悪い。

 こういう時は流れを変えるしかない。


 くそっ、シナグルの奴。

 やりやがって。


「お館様」


 ハイドがいきなり現れた。

 こいつが味方で良かった。

 敵なら俺は死んでいるところだ。


「おお、ハイド。首尾はどうだ?」

「魔道具百貨店の評判を落とすべく、客の誘拐から、暗殺に切り換えましたが、全て失敗いたしました」


「くっ、よほど優秀な防御魔道具を使っていると見える。しばらくは暗殺者を雇う金がない。とりあえず待機しておけ」

「はっ」


 ハイドが消えた。


「来客です。宮廷魔道具師長のホロン様がお見えです」


 執事が報せにきた。


「通せ」


「聞いたぞ。灯りの魔道具で大損したらしいじゃないか」

「勝負はこれからだ。ホロン、お前の方はどうだ」


「宮廷魔道具師の把握に成功したぞ。もはや、味方か中立派しか残ってない。だが、味方が多数派になっている。手の内と言ってよい」

「それは重畳。お前の名声を上げて、魔道具省の設立の圧力とするのだ」

「分かっている。魔道具省を立ち上げれば、魔道具を全て支配できる。鉱山より儲かるに違いない」

「ふはははっ、気が早いが祝杯を上げよう」


 ホロンと祝杯を上げて良い気分になった。

 なんとなく流れが戻った気がする。


 まとまった金が無いが、金がなくとも出来る策謀はたくさんある

 愛人を呼んだ。


「店の評判を落とすにはどうしたら良いかな」

「食堂などでは虫が入っていたと騒ぎ立てる手がありますね」


「魔道具だと不良品を売りつけたと言いがかりを付けるのか。ふむ、チンピラを雇う金ぐらいはある手配しよう」

「それと合わせて評判が悪いと噂を流します。噂が広がれば客は来ないでしょう」

「ふむ良い手だ。噂を流すのは酒場で吹聴して回れば良い。金はさほど掛からん」


「シの男は、どこかに金づるがあるに違いありません。これを潰してみては」

「ふむ、とりあえず隠し財産を作って没収の罪を逃れたと訴えてやろう。もう一度金が取れるかも知れん。お前、賢いな。愛人には勿体ない」


「では侍女長の肩書を頂きます」

「うちの家なら問題ない。そのうち王家の侍女長も可能だろう」

「約束ですよ」


 愛人といちゃいちゃしてストレスを発散した。

 さらに流れが戻ってきたような気がする。


 狩にでも出て更にストレスを発散するか。

 王都の郊外の森へ行きしばらく歩くと。

 でっぷり太ったオークが出て来た。


「足の腱を斬れ。殺すなよ」

「はい」


 お抱えの冒険者達がオークの足を斬る。

 オークは立っていられなくなった。

 俺は鞭を出すと振り回し始めた。

 パンパンと地面を叩く音が心地いい。


 そして、オークを叩き始めた。


「ぷぎぃ」


 オークは懇願するような顔をしている。

 そうだその顔が見たかった。


 何度も鞭で打つ。

 オークの体は全身痣になり所々皮膚が裂けている。


「ふふふっ」

「ぷぎっ」


 オークの怯える表情が良い。

 いくら強い奴でもこんなものだ。

 金の力には敵わない。


 モンスターをいたぶるのは良い。

 なかなか死なないからな。

 人間だと鞭で30回も叩けば弱い奴なら死んでしまう。


 オークを100回ぐらい叩いただろうか。

 かなり息が上がってきた。

 良い運動になっている。


 俺は太っているが運動は嫌いじゃない。

 毎日、愛人と運動しているし、狩に出てこうやって運動している。

 冒険者ならCランク程度の戦闘力はあるはずだ。


 俺のスキルは、鞭術と、身体強化と、眼光。

 眼光は格下なら絶大な効果を発揮する。

 子供の頃にははったりだと馬鹿にされたが、今では気に入っている。


「ぷぎっ、ぷぎぃーーーー!」


 オークが大声を上げ、ピクリとも動かなくなった。

 死んだのか。

 つまらん。


 いつかシナグルやその親しい者達をこうやっていたぶってやりたいものだ。

 何事も順番だ。

 まずは店を潰す。

 そして戦闘力を奪う。

 信用も名誉も何もかも奪う。


 くくっ、楽しくなってきた。

 更に流れがきたような気がする。


 魔道具大学教授のニードに手紙を書こう。

 なんとしても功績を上げてシナグルの功績を塗り潰せと。

 いいやなかったことにするのだ。

 シナグルの奴、後で見てろよ。

 吠え面かかせてやる。

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