第11話 違う道
Side:スイータリア
浮浪児達のパン作りの腕が一向に上がらない。
子供だからなの。
普通の子供ってこんな物。
でもパン作りをする浮浪児達は楽しそうだ。
失敗してもしまったという顔をしない。
「スイータリアちゃん、カモられているよ」
テアちゃんが二人だけの時にそう言った。
「ええと舐められているってこと」
「そう。失敗作は材料費の値段で持ち帰れるよね」
「うん」
「それをわざとやっているの」
「ええーっ!」
わざと不味いパンを作るなんて、パン職人の風上にも置けない。
態度を改めさせなきゃ。
「みんな、わざと失敗してたのね」
「悪いかよ。失敗作は安く売ってくれるんだろう。何が悪い」
「失敗作でも待っている友達がいるの」
「気にいらないならどうする? 一度言ったことを取り消すならお前は嘘つきだ」
「何で私の言う通りにしないの!!」
「できるかよ。仲間でもないくせに!!」
取っ組み合いの喧嘩をしてしまった。
テアちゃんが仲裁に入らなければ、私は身体強化スキルを使って圧倒してた。
そうなったら、亀裂はさらに深まった。
でも謝るつもりはない。
私は間違っていない。
でもどうしたら。
浮浪児達を店から追い出して、明日来るように言って、私はシナグル魔道具百貨店の喫茶店コーナーに入った。
「随分しょげてるな」
「善人金貸しのおじさん」
「話してみろよ」
今までのいきさつを話した。
「私は悪くないと思うんだけど」
「パン屋の嬢ちゃん、やり方が不味い。ひとを動かしたかったら飴と鞭だ」
「ええと鞭は嫌だな」
「浮浪児なんてのはチンピラ予備軍だ。鞭なくして言うことは聞かせられない」
「枷を嵌めるのよ」
読書をしてたマギナお姉さんが顔を上げて言った。
「殲滅の、何か良い案があるのかよ」
「週に何回まで失敗できるか決めておいて、その回数以上失敗したら首にする。回数は腕が上がったら段々と減らしていく」
「首にするの?」
私はちよっと納得できなかった。
なんか嫌だな。
「まあ妥当な案だ」
善人金貸しのおじさんもその案に賛成みたい。
テアちゃんと相談ね。
テアちゃんに話すと。
「いいかも。ギルドだって依頼を失敗し続ければペナルティがあるわ。失敗が多い子は向いてないのよ。別の道に行ってもらったら良いわ。ここを首になったって元の状態に戻るだけだし」
向いてない子を引き止めるのは良くないのかな。
次の日。
「見習いの人は、週に失敗できるのは7回まで。この数は段々と減らしていくわ。失敗した数を越えた人は首よ。失敗作は今まで通り安い値段で売る」
「くっ、そりゃないぜ」
「嫌なら来なくて良い」
テアちゃんがピシャリと言い放った。
浮浪児達は渋々、従った。
浮浪児達は真剣にやるようになった。
パン作りに成功したら、追加のお給金も払うことにする。
さらに浮浪児達はやる気を出した。
現在、失敗できるのは週に3回。
病気とか特別な理由がない場合は、店に来なくてパンを作らなかった場合も失敗扱いにした。
クッキー係のメイプルちゃんには失敗して欲しくない。
魔力甘味は貴重だから。
「メイプルちゃんはこの店の見習いではなくて、職人として雇いたい。どう?」
「私なんか」
「メイプルちゃんのクッキーは砂糖を入れてないのに甘い。凄い才能なんだよ」
「でもパンは甘いと嫌がる人はいる」
メイプルちゃんがその技を発揮するパンね。
コーヒー味のパンとかどうかな。
ミルクたっぷりで甘いコーヒー味。
本当はチョコレートが良いんだけど。
チョコレートはシナグルお兄さんでないと手に入らない。
コーヒーパンの開発が始まった。
また、失敗作を大量に出してしまった。
でも浮浪児達が食べて評価してくれる。
心強い味方ね。
コーヒーパンが完成した。
「こんな美味しいパンができるなんて。私、甘いパンを極めます」
「決心してくれたのね。クッキー部門と甘いパン部門は任せるわ。存分に腕を発揮して」
メイプルちゃんが正式な職人として加わった。
「やっちまった」
週に4回、失敗した子が出た。
名前はリータ。
友達になれたのにお別れしないといけないの。
涙が溢れた。
「ぐすっ、テアちゃん」
落ち着かないと。
歌う魔道具人形のメアリを歌わせる。
「虹を駆けあがって大空高く♪愛しのあの人は今どこに♪鳥さん教えてよ♪雲さん教えてよ♪……」
メアリの歌で少し落ち着いた。
「ルールだから。でもフォローして上げるのはありよ。次の仕事を紹介してあげたら」
テアちゃんは冷静ね。
「そうする」
例の喫茶店コーナーにリータを連れて行く。
「誰かこの子に仕事を与えてくれませんか」
「お願いします」
受付嬢のピュアンナお姉さんが近寄ってきた。
「何ができるのかしら?」
「スケートリンクの学校で文字と計算を教わりました」
「そう、安いけど、文字が読めない人や、お年寄りなどに文章を読む仕事があるわ。一回銅貨2枚の出来高制よ」
「やります」
ピュアンナお姉さんのポイントカードが光る。
道は一つではないのね。
きっとリータは魔道具ギルドの職員を目指すのかしら。
ピュアンナさん好き好きオーラを出しているから、きっとそうね。
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