第10話 店員
Side:スイータリア
とりあえず、大量の試作品は収納魔道具に入れられた。
休み時間、喫茶店コーナーへ行く。
掃除で善行ポイント稼いでたけど、今は浮浪児達がやっている。
ポイントを稼いで、ただで魔道具を貰うのが夢みたいね。
うん、魔道具はそれなりの値段するから、売ればとうぶんお金には困らない。
「マギナさん、来ないな」
「来ないね」
「マギナさんに何かあるの?」
聞いてみた。
「たまにクッキーを奢ってくれるんだ」
「でも特別な日じゃないと駄目なの」
「特別な日って?」
更に聞いてみた。
「浮浪児の誰かが魔法を覚えたりすると、記念のお祝いよと言って、クッキーをみんなに奢ってくれるんだ」
「そうそう。私も魔法覚えようかな。食べるのに困らないっていうから」
「スケートリンクの奴らは上手い事やっているな。でも魔力を使うなら、充填屋をやった方が良い」
「充填屋は口が上手くないと」
「だよな。そういうことができなくて魔力結晶を作れる奴がスケートリンクをやっている」
「俺、どう頑張っても魔力結晶は無理だった」
「私も」
「クッキー食べ放題の仕事があればな」
知らないからそんなことを言うのよ。
試作品の処分がどれだけ辛いか知らないくせに。
でも私は浮浪児の苦労を知らない。
タンポポなんて雑草の根をお茶にして飲むほど追い詰められたことはない。
試作品をこの子らに振る舞えたらどんなに良いか。
テアちゃんはルールは守れと言う。
ルールを守れない奴は1流じゃないと。
それも分かる。
お母さんに失敗作を全て食べろと言われた時になんで反抗しなかったのかな。
ううん、分かっている。
叱ってくれるのは良い人。
お母さんは考えがあって失敗作を食べろと言ってくれたのよ。
たしかに失敗作を食べると足りない部分が見えてくることがある。
必要なことなのは分かる。
えっと、私とテアちゃんは失敗作を食べて良い。
何でかというと店員だから。
じゃあ、浮浪児を店員として雇ったら。
良いかも。
「パン屋、やってみない。失敗作のパンやクッキー食べ放題よ」
「やる」
「私も」
「俺も」
何人もの浮浪児が立候補してくれた。
ぐふふ、失敗作地獄を味合うが良い。
店に連れてってまずは風呂に入れた。
「お風呂入ったのは捨てられる前だった」
「私も」
「こんなに汚かったのか。お前、美人だな」
これだけで善行ポイントが入った。
まだまだ、これからよ。
腹がはちきれるほど失敗作を食うと良いわ。
綺麗になった彼らに失敗作のクッキーを食べさせる。
「数字は分かる?」
「スケートリンクの学校で教えてくれるから」
「値札ぐらい読めないと騙されるからな」
「じゃあ、何番のクッキーが美味しかったか紙に書きなさい。同じ番号のクッキーは食べたら駄目よ」
試食会が始まった。
みんな嬉しそうにクッキーを食べている。
泣き出した子もいる。
失敗作がつらいってわけじゃないわよね。
「美味しいよぉ」
「泣くなよ。俺も泣きそう」
そう言いながら泣いて食べているから、善行ポイントがガンガン入る。
この子達を飢えさせたらいけない。
そう思った。
私は恵まれているのね。
どの失敗作が美味しかったか分かった。
でもみんな味覚はバラバラ。
とりあえず1番多かったのを正式採用とした。
このまま解雇は薄情過ぎる。
「あなた達、パンの作り方を覚えてみない」
「やる。金になりそうだから」
「ええ、パン屋なら飢えることはないわよね」
みんな、やるみたい。
捏ねるのはわりと簡単。
ただ美味しいパンになるのかは腕の差が出る。
最初は私も膨らまなくって、失敗作を毎日食べていた。
懐かしい。
このまま、失敗作になっても彼らが可哀想だから、私が捏ねる。
「捏ね♪捏ね♪美味しくなーれ♪捏ね♪捏ね♪私の愛情パン」
これで、魔力旨味が入ったはず。
あれっこの子のは既に魔力が入っている。
どういうこと。
この子のパンは焼く時に混ざらないようにしましょう。
浮浪児達のパンが焼き上がる。
ほとんどのパンが膨らまなかった。
初めはそう。
「さあ、失敗作を好きなだけ食べて」
「あのよう。今日働いた金で失敗したパンを買えないかな」
「うん、材料費の値段にしてあげる」
失敗したパンを売るのはルールに違反してない。
「私もそうする」
「何でなのかな?」
「腹を空かしている友達に持って行きたいの」
「これからも失敗作は安く売ってあげる」
「ありがと」
善行ポイントが加算されたのが分かった。
ええと、問題の子のパンは。
食べてみると甘い。
砂糖なんか入れてないのに。
魔力が甘味になったのね。
この子と私が力を合わせればうちのパンはもっと美味しくなる。
「あなた名前は?」
「メイプル」
メイプルちゃんはどんなことをしても確保よ。
砂糖は高い。
砂糖要らずはなんて素敵なんでしょう。
とりあえず、クッキーはメイプルちゃんに任せましょう。
パンは甘いのも良し悪しだから考えないと。
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