第9話 タンポポコーヒー
Side:スイータリア
パンの焼けた良い匂いがする。
パン窯から取り出したパンはふっくらして美味しそう。
私はスイータリア、9歳。
9歳にしてパン屋を経営している。
他にいるのは共同経営者のテアちゃん。
私と同い年。
さあ、今日もパン屋開店よ。
クッキーを焼いたら、隣のシナグル百貨店に納入しないと。
私のパンには秘密がある。
捏ねるのは魔道具がやってくれるのだけど、最後に私が愛情を込めて捏ねる。
そうするとなぜか魔力が込められて、これが旨味の素になるみたい。
クッキーもそう。
私が捏ねるとなぜかそうなる。
捏ねる時に何を考えているかと言えば、シナグルお兄さんに食べて貰いたいなって考えている。
シナグルお兄さんへの愛がこもっているの。
すぐに朝のパンは売り切れになった。
ここからは自由時間。
隣のシナグル魔道具百貨店に遊びに行く。
「テアちゃん、店番お願い」
「うん、何かあったら隣に報せに行く」
「昼のパンの仕込みまでには帰ってくるから」
バスケットにパンを入れて、隣に行く。
「おはよう」
「スイータリアちゃん、いらっしゃい」
クラリッサお姉さんが暖かく迎えてくれる。
「今日のパン」
「いつもありがとう」
「ううん、いいの」
私のシナグルお兄さんへの愛が届いたのか、シナグルお兄さんが2階から降りてきた。
ピュアンナさんを伴って。
ピュアンナさんはライバルのひとり、でも今日はいちゃいちゃしてる雰囲気ではない。
何かあったのかな。
「灯りの特許登録は間に合いませんでした。でも他の登録は阻止できました」
「ありがとう。制度にこんな抜け道があったとは」
「魔道具職人や真っ当な商人なら、こんなことをしませんよ」
「灯りの魔道具なら問題ない。明るさ調整できる灯りの魔道具を作るから。これなら特許登録できるから問題ない。特許使用料は銅貨1枚にしておくよ」
「助かります」
「おはよう」
私は元気に挨拶した。
「おはよう。スイータリアちゃん、今日もパンの良い匂いね」
「おはよう、いつも悪いな」
「いいの。隣のよしみっていう奴。来店ポイントを毎日貰っているし」
シナグルお兄さんを巡るライバルがいないか店内をパトロールする。
2階の店員はグレタお姉さん。
うん、シナグル好き好きオーラを出している客はいない。
3階の店員はオーサムお兄さん。
うん、シナグル好き好きオーラを出している客はここにもいない。
チェック完了。
私はシナグルお兄さんを巡る女の戦いで同盟を結んでる。
加盟しているのは、ソル、マギナ、ピュアンナ、私、マニーマインの5人。
抜け駆け禁止なのよね。
他の女性をシナグルお兄さんに寄せ付けないことにしている。
諦めない女性には同盟に加わることを勧める。
いまのところ加盟しそうな女性はいない。
でもクラリッサとグレタは少し怪しいと思っている。
要注意人物ね。
喫茶店に行って、箱に銅貨を入れる。
クッキーとお茶を貰った。
今日のクッキーも良い出来。
でもパンの道に終わりはない。
さらに美味しいパンとクッキーを目指さないと。
クッキーにハーブを練り込んでみようかな。
他所の店ではやっている。
完成するまでしばらくクッキー漬けかな。
失敗作を食べなさいというのはお母さんに言われた。
ハーブを練り込むのは良いけど、やたらめったらやっても良い結果は出ない。
第一候補はミントかな。
爽やかな香りだから。
ハーブとは少し違うけど、お茶も良いかも。
でもすでに他所でやっている。
喫茶店に行くとマギナの弟子のヤルダーお兄さんがいた。
マギナは食にあまり興味がなさそうだけど、ヤルダーお兄さんは食い意地が張ってそう。
「ねえ、ヤルダーお兄さん。何か変わったハーブとかお茶を知らない?」
「変わった物か。あるよ。浮浪児御用達のお茶が。タンポポの根を炒るんだ」
「あの黄色い花のタンポポ」
「苦みが癖になる味だよ」
浮浪児の知恵か。
良いかも。
タンポポなら簡単に栽培できる。
とりあえず、根っこを試しに採ってみた。
フライパンで炒ると香ばしい匂いがした。
お湯を注ぎお茶を淹れる。
「苦っ」
「何?」
「テアちゃんも飲む?」
「うん。これはちょっと苦いわね」
「毒とか入ってないかな」
百貨店の喫茶店コーナーに行くとシナグルお兄さんがいた。
「タンポポでお茶を作ったんだけど、毒があるか調べたいの」
「タンポポコーヒーか。妊婦さんにも優しいあれな。体に悪い成分はないと思うぞ」
「シナグルお兄さんは好きな味?」
「コーヒー味はわりと好きだな」
好きなんだ。
じゃあ作りましょう。
タンポポコーヒー味のクッキーの試作品ができ上がった。
苦いのは苦手だから、苦さ控えめにしたけど、どうも苦手。
「シナグルお兄さーん」
喫茶店に行くとコーヒーがあった。
お好みでミルクと砂糖をどうぞとある。
えっ、ミルクと砂糖?
実際にミルクと砂糖を入れて飲んでみた。
ミルクのまろやかさが苦みを和らげる、そして砂糖の甘さがさらにコーヒーを引き立てる。
美味しい。
これよ、これっ。
クッキーにもミルクと砂糖を入れたら良いのよ。
試作品が山とできた。
クッキーの味をみるのは1個食べれば事足りる。
でも作る時は少量って難しいのよ。
量っても、同じ味にできない。
安定した味を出すなら、大量に作らないと。
この試作品の山をどうするの。
お母さんは失敗作は自分で食べるのよと言ってたけど、とても食べきれない。
テアちゃんがげっそりとした顔をした。
分かる、分かるよ。
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