第8話 簡単な仕事

Side:ロサー


 俺はしがないチンピラのロサー。

 この世はチンピラには肩身が狭い。

 冒険者達はCランクともなれば人外の強さだ。

 束で掛かっても勝てる気がしない。


「おい、仕事だ。仕事はシナグル魔道具百貨店の客をさらうこと。できるな。報酬は金貨を約束しよう」


 上の組織の人にそう言われた。


「一般人なら負けないですぜ」


 ちょろい仕事だ。

 これで金貨1枚か。

 当分遊べるな。


 さて、どいつにしよう。

 あの女の子が良いか。

 料理人の恰好をしていて歳は10歳ぐらいだろう。

 強者なわけないよな。


 その女の子は、隣にあるパン屋に入っていった。

 客が多いな。

 少し待つか。

 やがて売り切れの札が掛った。


 チャンスだ。

 客はいない。


 俺達は覆面してパン屋にかちこんだ。

 中には女の子が二人いた。


「きゃあ」

「私の一撃の身内よ。それで良いなら掛かって来なさい」


 一撃って言えばSランクじゃないか。

 やばいか。

 だが一撃はこの場にいない。

 構うものか。


 女の子の首にぶら下がっているカードから電撃が飛んだ。

 俺達は痺れて動けなくなった。


「悪い盗賊はいねがぁ」


 どうみても悪人だろうという奴が入ってきた。

 やばい。

 上の組織の幹部より強いかも。

 強者のオーラが漂っている。

 ドラゴンと対峙したらこんな感じか。


「あっ、義賊王のブルータおじちゃん」


 気絶したくなった。

 よりによって義賊王。

 こいつのことは知っている。

 盗賊を襲う盗賊だ。


 こいつに見つかって無事だった盗賊はいない。

 最悪なのは善人にさせられて、命がけのモンスター退治をやらされることだ。

 そうなると笑いながら死んでいくとか。

 そんな狂人になりたくない。


「覆面しているから悪人で間違いないな。善人になっちまいな」


 十字架の形の魔道具を出してそれを使われた。

 くそっ、今までやってきた悪行がトラウマみたいに襲い掛かる。


「あがが、この気持ちはどうやったら」


 やっと喋れるようになった。


「感謝の気持ちが良心の痛みを緩和してくれる」


 ああ、狂人の仲間入りか。

 でも、この気持ちを味わったら更なる悪行などできない。


「おじちゃん、ありがとう」

「良いってことよ。百貨店にいた時、危機を報せる魔道具に反応があったからな。いまポイントも入ったしな」


 俺達は元の組織に戻れない。

 だが組織から抜けるのは死を意味する。

 罪の償いに死んだ方がいいのかな。


「どうやって生きていけば」

「俺達の仲間に加われよ。なにモンスターとかに齧られたら、モンスターの肉を使って治してやる。Cランク以上の実力になれるぞ」

「お世話になります」


 簡単な仕事だったのにな。


Side:ファット・フーリッシュ

 俺はシナグルを敵だと思っているファット・フーリッシュ。

 手始めにシナグルの店に出入りする客を誘拐しようとチンピラを差し向けた。


 人さらいをさせたチンピラが全滅した。

 その数は100人を超える。

 客をさらうという簡単な仕事のはずだ。

 なんでこうなる。


 奴は神か。

 ひょっとして、手を出してはいけなかったのか。

 いや、俺は何も被害を被ってない。

 きっと客に防御の魔道具を持たせたのだな。


 客をさらうのは断念しよう。

 チンピラを動かすのにだいぶ金を使ってしまった。


 金儲けするか。

 魔道具ギルドの職員を屋敷に呼び出した。


「何か御用でしょうか」


 こいつは俺の息が掛った職員。


「ああ、特許登録したい」


 特許制度はシナグルが作った。

 魔道具の歌を登録すると、その歌を使って魔道具を作ると、登録者にお金が入る。

 違反する奴はとうぜん出て来るが魔道具ギルドが目を光らせている。


 特許申請の魔道具で調べるとその魔道具が特許登録された物か分かる。

 まともな工房だと魔道具ギルドを敵には回さない。

 これを今回は逆手に取るのだ。


「では歌を」

「これだ」


 灯りの歌を書いた紙を出した。


「これは灯りの歌ではありませんか」

「何か不味いのか?」

「シングルキー卿が一般に公開した歌ですね」


 その名前を出すなと激高などしない。

 今回は奴を出し抜いたのだから。

 名前を聞くぐらい許そう。


「だが、特許登録されてない」


「それは誰にでも作れるようにそうしたのであって」

「特許登録は早い者勝ちだろう。できるよな」


「いくらお世話になっているフーリッシュ様の頼みでも」

「そういうな。成功したら金貨50枚を出そう」

「やってみるだけですよ。失敗してもご容赦を」

「それで良い」


 職員はごねたが、現行の法律ではどうにもならない。

 笑いが止まらん。


 特許登録はできた。

 今まで作った灯りの魔道具はどうなるかというと、登録者がかなりの安値で買い取れるのだ。

 灯りの魔道具を支配してやったぞ。

 他の特許登録されてない魔道具もそうしようとしたが、駄目だった。


 魔道具ギルドに敵がいるようだ。

 魔道具省を作れば、敵など粉砕してくれる。


 俺の借りた倉庫は、灯りの魔道具で溢れかえった。

 この魔道具は高値で売り出してやろう。


 灯りの魔道具を買い取るのに、かなり金を使ってしまった。

 だが、一時的なものだ。

 すぐにどうにでもなる。

 どうにでもなるどころか大金持ちだ。

 シナグルは百貨店を開いた。

 俺はこの金で愛人を100人作るぞ。

 百美姫殿だな。

 くくくっ。

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