第6話 難しい課題

Side:ヤルダー


 僕はヤルダー。

 11歳ぐらい。

 ぐらいと言うのは僕は元は浮浪児で年齢がはっきりしないのだ。

 浮浪児生活を1年もすれば、生きるのに精一杯で、年齢のことなど忘れる。


 マギナ師匠に弟子入りしたあの時の僕を褒めてやりたい。

 あの時はただただ生活に疲れて、楽に生きたかった。

 でも魔法を覚え、行使していくうちに魔法は生きる糧になり、仕事と趣味になった。


 見習いから卒業などしたくない。

 したくないけどできないと言って師匠を落胆させることもしたくない。

 僕は師匠が好きだ。

 男女の関係になりたいと思っている。

 でも悔しいかな、僕の実力じゃ師匠の横には立てない。

 そう考えると見習い卒業試験ぐらい楽々とクリアしないと。


 でも難しい課題だ。

 宇宙がどうやってできたかだ。

 世界の成り立ちと言っても良い。

 世界というと時間と空間も含む。


 神が作ったなど信じられない。

 神が時間を巻き戻したなどという話は聞いたことがない。

 修復系の魔法はある。

 あれは時間を巻き戻しているのではなく、世界の記憶から形状を読み取って、その形に修復しているだけだ。


 何でそう言うかと言うと、修復するには材料が要るのだ。

 時間を巻き戻すのなら材料は要らない。


 収納魔法の時間停止も怪しい。

 あれは開けた先の空間に時間の概念がないだけだと思う。

 法則が違う世界なのだ。


 とにかく難しい課題だ。

 こうなったら、師匠を巡って恋のライバルのシナグルを頼ろう。

 あいつは師匠より真理を知っている。


 シナグル魔道具百貨店に行くと師匠が喫茶店で本を読んでいた。

 くっ、ちょっと後ろめたい。

 カンニングしているような気分だ。


 師匠は僕を一瞥すると、何事もないように読書に戻った。


「店長を出してくれ」

「またですか。店長を呼んでくるのは良いですけど、お前は駄目だといったら、出入り禁止にします」

「くっ」


 シナグルはきっと答えを教えてくれないな。

 アドバイスが欲しいだけだけど、この店を出入り禁止は不味い。

 師匠とシナグルの逢瀬は邪魔したい。

 出入り禁止になるとそれができなくなる。


「坊主、悩み事か。そんな顔をしているぜ」


 悪人面のおじさんが話し掛けてきた。


「お構いなく」

「いいや話してもらうぜ。善行ポイントが欲しいからな。ほら遠慮せずに」


 どうせ話しても分からないだろう。

 どんな答えをするか聞いてみるか。


「世界ってどうやってできたと思います?」

「そんなの神がくしゃみしたんだよ。だからここは海があり水に溢れている」

「太陽は?」

「鼻くそだな。それが燃えてるんだよ」


 聞いて損した気分だ。


「ありがとう」

「ちっ、今のは善行にならないのか。坊主、お前口だけで感謝してないだろう」

「ええ。だって下らない冗談でしたから」


「善人金貸しさんよ。そんなのじゃ駄目だ」


 ソルさんがやって来た。

 今の話を聞いていたのかな。


「一撃のおめえならどう答える」

「ある日、突然、力が生えたんだよ。それは今も続いている。人間だってある日力が芽生えるだろう」

「なるほど。全ての始まりは力の芽生えですか」

「やった、善行ポイントが入ったぜ」


 僕的にはありな答えだ。

 力に目覚めるのはよく聞く話だ。


「ヤルダーのお兄ちゃん、違うよ。捏ねることで物ができるんだよ」


 スイータリアちゃんがそう言って話に割り込んできた。


「根拠みたいな物は?」

「パンて捏ねると膨らむでしょう。世界もそうやってできたの」


 うーん、強引な意見だ。

 シナグルさんが出て来た。


「シナグルさん」

「世界がどうやってできたかだろう。悪いがアドバイスはできない。自分の力でやるんだな」

「分かりました」


 ライバルに聞こうとした僕が恥ずかしい。

 いくら難しくても自分で考えないと。


 無から有は生じない。

 無から有が生じる何かとは何だろう。

 分からない。


 そうだ。

 ポイントを溜めればシナグルさんは願いを叶えてくれる。

 これなら師匠も文句は言わないはずだ。


 どうやってポイントを溜めよう。

 その前に来店ポイントというのを貰わないと。


「すみません来店ポイントを貰いたいんですが」

「お兄ちゃん、教えてあげる。あそこの魔道具の上にカードを置くの」


 やってみた。

 ポイントカードが光る。


「毎日来るとして、何日でポイント溜まるかな」

「早く溜めたいの? なら善行を積むと良いよ」


 スイータリアちゃんのポイントカードが光る。

 こういう親切をすると良いのか。


 ええと、浮浪児達を集めた。


「これから生きていくすべを教える」

「教えて」

「俺も知りたい」

「私も」


「魔法を覚えると何でもできる」

「喫茶店の本読んでる人にも魔法を勧められた」


 師匠も布教しているらしい。


「いいかこんなことができる」


 魔力結晶を地面に張った。


「氷?」

「滑るけど、それほど冷たくない」

「これを覚えればもう心配は要らない。大抵の物がこれで作れるからだ」


 浮浪児達がぐぬぬと唸っている。

 そのうちのひとりからキラキラした物が出た。

 そうなんだ。

 20人もいると誰か才能のある奴がいる。

 もちろん才能が無くても、時間を掛ければ魔力結晶は出せる。


「コツは体の中の魔力の動きを止めることだ。自由に動いている魔力の動きを停止させる」

「ぐぬぬ、できた」


 ぽつぽつとできる奴が出始めた。

 ポイントカードが光っているのに気づいた。

 前の街でもやったけど、これを大規模にやってスケートリンクを作るのだ。


 そうすれば街の子供達から使用料を取れて、食事ぐらいはなんとかなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る