第5話 卒業試験のお題

Side:マギナ・トゥルース


「来ちゃった」


 私はマギナ。

 Sランク冒険者でもある大魔法使い。


 初めて入る、シナグル魔道具百貨店。

 4階建てね。

 1階にはなぜか喫茶店が併設されている。

 1階だけでも魔道具の品揃えが凄そう。


「いらっしゃいませ」


 女性店員が迎えてくれた。


「店員さん、店長を出して」

「あなたもですか」

「そう言った人がいたの」

「はい、赤毛の女剣士の方です」

「くっ、先を越された。でも挽回は可能なはず」


「店長はお会いになりません」

「マギナが来たと伝えてくれる。伝えないと後悔するわよ」

「仕方ありませんね。伝えてきます」


 しばらくしてシナグルが現れた。


「開店祝いに花を持ってきたわ」

「ありがとな。クラリッサ、活けておいてくれ」

「はい」


「ところでこのポイントカードはどうなっているの。魔力を補充せずに24時間動いている。どんな原理? それに転移は魔力を食うわよね。あの転移扉は枠に溜石がぎっしり詰まって並列繋ぎにしてあるはず。同じ技術ならここまで小型化できない」

「ここじゃなんだ。喫茶店で話そう。喫茶店に客はいないしな」


 喫茶店は、店員がいなかった。

 飲み物を飲む時は箱に代金を入れる。

 クッキーもよ。

 泥棒が良く来ないわよね。

 シナグルのことだからきっと対策はしてるのだろうけど。


「さあ、喋って」

「ポイントカードの中には核石と導線と、そして、神の硬貨が入っている」


 神から貰った硬貨は不思議な力がある。

 願いを叶えてくれるの。

 私の杖にも1枚付いているけど、魔法の威力、展開スピード、安定性、色々な魔法に関するものが上がっている。

 それをカードに入れたの。

 たぶんシナグルはポイントカードの機能を願ったのね。

 一度願うとその硬貨は別の願いは受け付けない。


「納得したわ。しかし、勿体ないと思わなかったの」

「一杯あるから、これからも何か神に売りつければ貰えるし」

「そうね。さすがは私が愛した男でもありライバル。ちょっと悩んでいることがあるのよ。弟子のヤルダーの見習い卒業試験をやりたいのだけど、私が考えると手心を加えそうで」


「魔法使いの卒業試験か。うーん、モンスターを倒せとかじゃ駄目だよな。そんなのが魔法使いの本分だと思えない。そうだ宇宙の始まりを推測せよとかどうだ」

「難しい試験ね。正解がなさそう。教会の信者なら、神が在れと言って始まったの一言だけど」

「俺も正解は知らない。学説はいくつか知っているけど」

「私、学説も知らないわ。何で知っているのよ。くぅ、また負けた。ヤルダーの試験を採点するためには私も勉強しないと」


「マギナ、来てたの」

「スイータリア、パン屋はどうしたの?」

「いま、寝かせているところ。昔ならパンを捏ねて疲労困憊で昼寝の時間だけど、昔の私じゃないわ」


「おう、マギナじゃないか」

「くっ、ソル。今度は一番は譲らないわ」


「開店と同時に来たのはスイータリアだな。あたいは探し物してて遅れをとってしまったぜ」

「えへへ。一番の女」


「賑やかだな」


 あいつは悪党のベイス。

 だけど、評判は悪くない。

 信者もいるそうだから。


「ポイントを貰いに来ました。私のはどうやらお願いポイントに到達したようだ」


 あいつは、英雄貴族のケアレス・リード。

 もうポイントを溜めたの。

 来店ポイント以外でも溜まるのね。


 そうそうたるメンバーになったわね。

 私は来店ポイントがもらえる魔道具上にカードを置いた。

 カードが光る。


 シナグルの仕事の邪魔はしないで、ヤルダーに試験の内容を伝えましょう。

 私も頑張らないと。

 でも善行なんて意図的にやるものじゃない。

 自然とやるものよ。


 家に帰り弟子のヤルダーと向き合った。

 入門した時には私の方がかなり背が大きかったのに、今ではヤルダーに追い抜かれそう。

 歳月を感じるわね。


「ヤルダー、試験の内容は宇宙はどうしてできたかよ」

「えっ、難し過ぎませんか。そんなことが書いてある本は見たことがないです。宗教の聖書以外はですね」

「もちろん神が作ったという答えでも私は構わないわ。でもなんらかの根拠と推論を見せてくれないと」

「分かりました」


 ヤルダーは素直に試験を受け入れた。

 さて私もどうして世界ができたのかを調べないと。

 どこの教会も神が作ったということね。

 じゃあ、その神は誰が作ったのよ。

 神を作った者は誰が。

 こうなるとニワトリが先か卵が先かみたいになるわね。


 収納魔道具に、本を入れてシナグル魔道具百貨店の喫茶店コーナーに行きましょう。

 喫茶店コーナーではスイータリアとテアと浮浪児達が掃除していた。

 スイータリアとテアと浮浪児達のポイントカードが光る。


「ちょっと、なんで光ったの?」

「良い事をすると光るんだよ」


 浮浪児が教えてくれた。

 浮浪児のポイントカードが光る。


 善行ポイントが入ったのね。

 こうやって喫茶店を運営してたの。


 喫茶店の椅子に腰かけて本を読み始めた。

 そもそも、物って何。

 シナグルによれば元素で出来ている。

 元素は中性子と陽子と電子で出来ている。


 じゃあ中性子と陽子は何で出来ているの。

 シナグルの元素の説は良く出来ている。

 でも更なる謎が湧いて来る。


 スイータリアがお茶を運んできた。


「ありがとう」


 スイータリアのポイントカードが光る。

 あざといポイントの稼ぎ方ね。


「みんな、クッキーを奢るわよ」


 私は箱に金貨を入れた。

 浮浪児達がクッキーを食べる。

 私のポイントカードが眩く光った。


「みんな、魔法を覚えるのよ。そして真理を探究してもたらしなさい」


 浮浪児は頷いた。

 またも光るポイントカード。

 光は強くなかったけど、何人かは魔法の探求に目覚めたのね。


 魔法の布教も出来て、浮浪児達もお菓子が食べられる。

 そして善行ポイントが溜まる。

 良い事だわ。


 これからもここで掃除している子供を見かけたら、お菓子を配りましょう。

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