第4話 次なる策謀

Side:ファット・フーリッシュ


 しめしめ、あの忌々しいシナグル・シングルキーを追放してやった。

 奴に利用価値などもうない。

 追放したとしても問題ない。

 追放して空いた宮廷魔道具師長には一族のモロンを押し込んだ。

 追放して空いた教授には一族のニードを押し込んだ。

 俺は、立ち消えになった魔道具省を復活すべく活動している。

 その大臣には俺が収まる予定だ。


 さてと、シナグルのお宝を拝むとしようか。

 収納魔道具を手に取って起動する。

 なぜか物が取り出せない。

 くっ、故障か。


 直すには核石の歌が分からないと。

 収納魔道具の歌をシナグルは公開してない。

 理由は戦争に使われるからだそうだが。

 あいつめそういう所が大嫌いだった。

 力を持つ者が侵略して何が悪い。


 宮廷魔道具師を呼び出す。


「故障しているようだ。直せ」

「何の魔道具でしょうか」

「見て分からんのか。収納魔道具だ」

「シングルキー魔道具長でないと直せません」


 わしはテーブルにあったお茶のカップを投げつけた。


「元だ。その元も罪人なので抹消されている」

「熱い。何をするのです」

「その名前を二度と出すな」


「とにかく直せません」


 使えない奴だ。

 だが、ギルドの口座の金貨58枚がある。

 これでとうざは我慢しておこう。


 シナグルの身柄をさらって、収納魔道具を直したいが、奴は冒険者としてSSSランク。

 かなり腕の立つ奴でも厳しいだろう。


 とりあえず監視に留めておくか。


「おい」


 俺はベルを鳴らした。


「お呼びですか?」


 男が現れた。

 この男はハイドと言う。

 隠身のスキルを持つこいつは気に入っている。

 こいつに監視を頼もう。


「シナグル・シングルキーを監視しろ」

「かしこまりました」


 ハイドが消える。

 俺はシナグルの工房から持ってきた魔道具を調べ始めたら、半数ほどが故障していた。

 もしかして、シナグルが壊れろと命じると壊れるようになっているのか。

 奴は魔道具の神なのか?

 いいや、偶然故障した魔道具が集められていただけだ。

 きっとシナグルが直すつもりだったのだろう。


 取り立てて変わった魔道具はない。

 やはり、重要な魔道具は収納魔道具の中か。

 運の良い奴め。


 王は静養していて国政にはほとんど関わっていない。

 王太子はこちらの味方だ。


 何を恐れることがある。

 リード伯爵とリプレース伯爵とヌイサンス侯爵は、シナグルの味方だが、3人で何ができる。

 戦いは数だ。

 大抵は数の多い方が勝つ。

 恐れることなどない。


 愛人を呼んだ。


「臨時収入で金貨58枚が入った。何が欲しい」

「シナグル魔道具百貨店の美容魔道具が欲しいわ」


「たわけ」


 俺は愛人を殴った。


「何をなさるのですか」

「お前の顔など見たくない。失せろ」


 愛人は顔を押さえて泣きながら去った。

 やっぱり売女に等しい女などこんなものか。

 シナグルの名前をここで聞くとはな。


 あいつ、店を始めたのか。

 無一文にしたはずだが、隠し財産でもあったのだろう。

 それともドラゴンでも狩って資金を作ったか。


 冒険者ギルドと魔道具ギルドは俺の手が及ばない。

 財産没収で口座の金は取れたがそれだけだ。

 資格停止に追い込めなかったことが悔やまれる。


 本当は処刑したかった。

 だが、俺の派閥の貴族から、反乱を起こされたら困ると言われた。

 王太子からもそれは釘を刺された。


 恐れる必要などないものを。

 まあ良い。

 店なら妨害して潰すこともできる。

 シナグルはSSSランクでも客はそうではない。

 チンピラでも雇えば簡単だ。


 とりあえず、用心棒の類の実力を調べることだな。

 それはハイドがしてくれるはずだ。


 金貨58枚で新しく愛人を作るか。

 メイドを呼ぶベルを鳴らす。


「旦那様、御用ですか」

「お前、愛人になるつもりはないか。前から目をつけていたんだ。とりあえず金貨58枚でどうだ」

「はい、お受けします」

「そうか。親兄妹も引き立ててやろう。なに宮廷魔道具師と魔道具大学は良いように出来る。職員のポストならどうにでもなる」

「嬉しい」


「ひとつ言っておく。シで始まる魔道具店の名前は言うなよ」

「はい」


 これでこの女の親戚を職員に入れればさらに俺の力が強まる。

 力とはこうやって増やすのだ。

 シナグルの奴は身内をぜったいに依怙贔屓しなかった。

 とんだ甘ちゃんだ。

 だから寝首を掻かれるのだよ。

 捏造した証拠はシナグルの部下を金で買収してやらせたのだ。


 数も力だが、金も力だ。

 力を持った者が強い。

 強い者に弱者は蹂躙されるだけだ。

 個としての戦闘力なぞ恐れるに足りない。

 武力など金と数でどうにでもなる。


 新しい愛人をひとしきり可愛がった後に聞いてみた。


「ドラゴンみたいな男がいるがどうやって倒す」

「毒でも使えばよろしいのでは」

「相手は毒は効かない」


 毒感知の魔道具と、解毒の魔道具を持っているからな。


「ならば人質を取って、言うことをきかせれば」

「うむ、良い手だ。」


 それもハイドに調べさせよう。

 身内で誰か隙のある奴がいるだろう。

 隙のない人間などいない。

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