第3話 犯人
Side:ソル・ソードマスター
「開けてもいいか?」
テアの部屋の前でシナグルが尋ねる。
「開けれるのか?」
「針金さえあればな。魔道具の金庫ってのは意外に多い。魔道具の鍵だけじゃなくて普通の鍵も付いていることが多い。開けられなくなったのを何回か開けたさ」
魔道具職人SSSランクは伊達じゃないな。
シナグルが針金で鍵穴を探る。
カチッと音がして扉が開いた。
中にはキュリと末っ子のテルがいて立ち塞がった。
遮音の魔道具があるので何と言っているか分からないが、駄目とかなんか言っているんだろう。
庇った宝石箱窃盗の容疑者はあたいの足元にくるとブーツをぺろぺろ舐めた。
「わふん」
「よしよし、良い子だ」
可愛い容疑者は新品の首輪を着けた白い子犬だった。
部屋に入り、テアのベッドの下を見ると、スリッパや、骨、ぬいぐるみ、そして宝石箱があった。
「ばれちゃった」
「うん」
「犬は拾った所に戻せ」
「えー」
「嫌だ」
「犬を戻したら、罰は受けて貰うよ。こういう時は相談して欲しかった。分かるよな」
「ええ、罰は受けるけど、犬は捨てない」
「うん、僕も」
帰ったらテアも罰だな。
きっと主犯はテアだろう。
「じゃあ、依頼票に達成のサインを」
「面倒を掛けたね」
お仕置きは何にしよう。
その前に犬を戻すために説得しないといけない。
夕食が終わり、家族会議が開かれた。
「いいか、あたいは犬を飼うことには反対だ」
「なんで?!」
テアが激高する。
「理由か? 犬を飼うということは犬を家族の一員にするということだ。命に対して責任を持たないといけない。その覚悟があるか」
「ある!」
「みんなはどうだ?」
「試しに飼ってみてはどう」
あたいの言葉にルーナが応えた。
「飼うことに賛成」
そうイオが言うと、みんなが頷く。
気に入らないね。
「まず、試しになどという軽い気持ちでは許可できない。家族に加えました。面倒は見られないから、捨てます。そんな薄情なことができるわけない」
「それはそうね」
ルーナが言うと、みんな頷いた。
「家族にする。裏切ったりしないと誓う。覚悟ならある。命を懸ける。一生のお願い」
テアが決意を述べた。
「分かった。テアの一生のお願いを聞いてやろう。言っておくが辛いぞ。犬はあたい達より先に死ぬ」
「でもこのまま野良だと確実に死ぬ。助けたい」
テアのポイントカードが光った。
善行ポイントが加算されちゃお手上げだ。
あたいが折れないと善行ポイントは減るんだろうね。
それじゃ悪者だ。
「分かったよ。飼っても良い。だけど、世話に掛かる費用は自分のお金から出すんだ」
「やった。みんなカンパして」
妹が、ぬいぐるみの糸をほごして、中から銀貨を取り出した。
陶器の貯金箱が床に叩きつけられ割られた。
銀貨や大銀貨が出て来た。
お気に入りの服に縫い付けられた大銀貨が。
ベッド下の木の小箱から、大銀貨と銀貨が。
庭の木の根元から大銀貨が。
部屋の鉢から大銀貨が。
ズボンのポケットから銀貨が
天井裏から銀貨が。
集められた。
みんなのポイントカードが光る。
まあ、些細な善行なので、1ポイントぐらいだろうけど。
シナグル百貨店のポイントカードは良く出来ている。
優しい世界ができ上がるという仕組みになっている。
やはり優しさの嵐の中心のような男だ。
惚れ直すぜ。
みんなけっこう持っているな。
これだけあれば、犬小屋と色々なグッズと餌代は何とかなるだろう。
それと、病気が無いか診てもらわないと。
たぶん野良だと寄生虫とかいるんだろうな。
今も目ヤニが凄い。
毛も円形に脱毛している所がある。
医者の腕はいいから、そこは大丈夫だろう。
なんせシグナルが作っている治療の魔道具を使っている。
魔道具が高いので治療代はボッタクリだが。
シナグルによれば、少し高いぐらいが良いらしい。
健康に気を付けるからだそうだ。
医者が切羽詰まった人や事情がある人は、無料で治すのを知っている。
善行ポイントが欲しいからだろうけど、良い医者なのは間違いない。
「みんなありがとう」
「じゃあ隠してた罰だな。シロのうんちとおしっこの世話を一生だ。3人で交代でやれ。それと散歩だな。忘れるなよ」
「ええ」
「うん」
「うん」
犬はシロとあたいが名付けた。
あたいが名前を呼ぶと必ず来る。
あたいが序列1位らしい。
餌をあげているルーナは序列2位。
他はドングリの背比べだ。
テアなんか毎日、散歩に連れて行っているのにシロは従わない。
犬としては下僕だと思っているな。
でもよく一緒に遊んでる。
盗み癖は治らない。
外で飼っているので、被害は園芸用品とかだけどな。
靴を洗って外に干すとやられることがある。
ポイントを溜めてシナグルに何か魔道具を作ってもらおうか。
きっとシナグルも悩むだろうな。
犬の盗み癖を治す魔道具はあたいには思いつかない。
でもシナグルならきっとなんとかしてくれる。
そう信じている。
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