第2話 無くなった宝石箱
Side:ソル・ソードマスター
無い。
宝石箱が無い。
中に入っているアクセサリーは惜しくない。
金貨100枚ほどの価値だが、ドラゴンでも狩れば取り返せる金額だ。
だが、あの宝石箱は愛するシナグルからの贈り物。
中身はともかく、宝石箱は返してほしい。
あたいはソル。
Sランク冒険者の剣士。
Sランクなので名誉男爵だ。
ソードマスターなどという家名を名乗っている。
冒険者稼業にははったりも大事だからな。
見事な赤毛が自慢で、スレンダーな体型。
あたい自身は均整の取れた見事な体つきだと思っている。
妹弟が9人もいる。
10人きょうだいってことだな。
両親は他界していない。
シナグルの所に行くか
シナグルとはもう6年にもなる長い付き合いだ。
ポイントカードを起動する。
シナグル魔道具百貨店の入口に出た。
扉を開けるとスイータリアがやってきた。
「おはよう」
「おはよう、先を越された」
「同盟のよしみで教えてあげる。来店ポイントって言うのが溜まる。あと裏技で善行でも溜まる」
「ありがとよ。こんどオーク肉でも差し入れする」
女店員がやって来た。
「いらっしゃいませ」
「シナグルはいるかい?」
「店長は誰にもお会いになりません。ポイントが溜まっていたら別ですが」
「おっとポイントを溜めないとな」
「ではこちらに」
案内された魔道具にポイントカードを置くと光った。
来店ポイントが補充されたらしい。
初めて来たがこんな感じなんだな。
「とにかくシナグルに会わせてもらうぜ」
「困ります!」
「クラリッサ、その人は良いんだ」
シナグルが出て来た。
あたいの声を聞いたのだろう。
「シナグルならそう言うと思ったぜ。良い店だな。開店祝いにオーク肉の良いのを持ってきた」
「ありがと」
「それで、ちょっと頼み事があるんだ」
「依頼ならギルドを通せ」
「そう言うと思ったぜ。よし、ギルドに行こう」
久しぶりに行った冒険者ギルドは駆け出しやら、熟練やらがたむろしている。
「おい、あれ見ろよ。一撃だぜ」
一撃はあたいの二つ名。
ざわめきが起こる。
シナグルに注目する奴はいない。
冒険者としてもSSSランクだけど、シナグルはほとんど依頼は受けてない。
前に依頼を受けたのは2年前だったっけ。
なにしろ、宮廷魔道具師長と、大学教授と、魔道具職人としての工房運営の3足のわらじだったからな。
冒険者なんかやっている暇はない。
あたいはシナグルに指名依頼を出した。
依頼は宝石箱を探してくれというもので、報酬は金貨1枚。
「懐かしいな」
宝石箱の詳細を読んでシナグルがぽつりと言った。
シナグルは、ギルドの酒場で核石を作り始めた。
『ラーララ♪ラ♪ラー♪ラ♪ラーララーラ♪ラー♪ララ♪ララララー♪ラ♪』シナグルが歌う。
「何の魔道具?」
「探偵魔道具」
「魔道具が探偵してくれるのか? どういう仕組みだ」
「天界の暇人が答えをくれる。そんな魔道具だ」
シナグルは妹弟達から話を聞くことにしたようだ。
まずは、一番上の妹のルーナ。
「昨日、来客はあった?」
シナグルが尋ねる。
「ないわ」
うん、そうだろう。
あたいも誰か来たという話は聞いてない。
「スイータリアは来たんじゃないか?」
スイータリアは妹のテアと組んでパン屋をやっている。
「ええ、でも家には入ってないわ」
外部の犯行じゃないのか。
となると妹弟達の誰かが犯人ていうことになる。
いや疑うのはよそう。
「何かいつもと違うことは?」
「ディテが念入りに掃除してたぐらい」
ディテは上から2番目の妹。
裁縫が好きで、お針子をやっている。
家でも色々と作っていることが多い。
掃除してたのは、布を裁断して糸くずがたくさん出たからだろう。
「なるほど参考になったよ」
シナグルが次に向かったのはディテの所。
やはり衣服を作っていた。
「何?」
「昨日念入りに掃除してたそうだね。何でかな?」
「言えないの。秘密という約束だから」
「宝石箱と関係があること?」
「ないと思うわ」
うーん、分からない。
犯人は妹弟の誰かでディテが痕跡を掃除した。
ディテに約束を破らせることなどできない。
誰としたかは分からないけど、約束は大事。
次にシナグルが向かったのはイオの部屋。
イオは一番上の弟で、冒険者をやっている。
今日は仕事ではないようだ。
冒険者は仕事をしたあとに休みを取る。
どのぐらい休むかは懐と、どれだけ依頼に時間が掛ったかだ。
部屋に入った途端良い匂いがした。
この匂いはハーブを調味料に肉を焼いた匂い。
まあ、育ち盛りだから、腹が減るのも仕方ない。
隠れて食っても文句は言わないさ。
「良い匂いだね」
「えっと」
歯切れが悪い。
「何の料理? 美味しかった?」
「肉の香草焼き。うん美味しかった」
「部屋に匂いがこもっているようだけど」
「さっき食べたところ」
「捜査協力ありがと」
シナグルが床から何かを摘まんだ。
細い白い糸に見えた。
次は、ジュピだ。
上から2番目の弟で、木工職人見習い。
部屋で細工物を作っていた。
木くずが凄い。
「それは皿だね」
「ええ、注文を受けたから」
変な皿だ。
横から見ると台形で、安定感が抜群だ。
「大体、犯人が分かった。可愛い奴だ」
シナグルには犯人が分かったらしい。
可愛い奴?
妹弟達じゃないよな。
「誰だ? 妹弟達じゃないよな。妹弟ではないとあたいは断言できる」
「おそらく、犯人を妹弟さんの誰かが庇っている」
「共犯がいるってのか」
「いや、犯人が罪を犯していることを知らない」
「騙されてるのか。もしそうなら赦さない」
ジュピの下の弟、ムーの部屋に入った。
なぜか殺虫の魔道具が置いてある。
これはシナグルによく眠れるようにと貰ったもの。
確かに昼間は使わないから、後で元の所に戻してくれれば、問題ない。
虫が湧いたりしたのなら嫌だな。
ムーは留守だ。
大工見習いだから建築現場に出ているのだろう。
次は、その下の弟のマーの所だ。
マーも仕事に出ている。
商人の所で働いている。
シナグルが鼻を動かした。
そうだ、何か匂いがする。
これは新品の革製品の匂いだな。
革製品の匂いは独特だから間違えたりはしない。
マーの下の妹のキュリの部屋に入る。
遊びに出ているのかいない。
テアの部屋に行ってノックする。
扉は施錠されてて開かない。
今、テアはパン屋で留守のはずだ。
留守に施錠しなくてもいいのに。
ソル姉はテアのことを信じているぞ。
「【傾聴】。あー、遮音の魔道具が起動してるな。歌が聞こえる」
「テアが犯人を庇っているのか」
ショックだ。
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