魔道具は歌う【後日譚】~魔道具の呪文を唯一理解している俺を、宮廷魔道具師長と、魔道具大学教授から解任だって? もう国がどうなろうが構わん。解任ざまぁしながら、のんびり魔道具百貨店をやるよ~

喰寝丸太

第1話 追放

Side:シナグル・シングルキー


 異世界転生してから22年。

 色々なことがあった。

 俺はシナグル・シングルキー。


 順を追って説明すると、成人した15歳で村を出て冒険者になった。

 俺のスキルは傾聴。

 音が良く聞こえるだけの何の変哲もないスキル。

 冒険には索敵で役に立ってたが、戦闘スキルのない俺はレベルが上がらず、パーティメンバーとの戦闘力の差は開く一方。

 そして、パーティから追放された。


 追放された俺に魔道具との出会いがあった。

 スキルを使うと魔道具からは歌が聞こえたのだ。


 その歌が示す魔道具の呪文はなんとモールス信号だった。

 前世で俺は無線の免許の勉強をしたことがある。

 それにモールス信号が必要だったために覚えていた。


 失伝していた魔道具の呪文を作り出せる俺。

 俺は19歳になり、冒険者と魔道具職人でSSSランクに上り詰めた。


 そして、工房を立ち上げ、宮廷魔道具師長になり、魔道具大学の教授になり、そして今だ。


「シナグル・シングルキー、貴殿を宮廷魔道具師長と魔道具大学の教授から解任する。そして不正の賠償として全財産を没収する」


 こいつは、ファット・フーリッシュで貴族。

 俺の地位が欲しかったと思われる。

 それとこいつの親戚を結果的に俺は破滅へ追い込んだ。

 何かしたわけじゃない自然と破滅していたのだ。

 逆恨みもはなはだしいが、言っても仕方ない。

 Sランクになった時に俺は貴族になった。

 この顛末は貴族によくある闘争なのだろう。


「俺がいなくなると新しい歌ができずに困るんじゃないかな」

「ふん、生活で使う魔道具の歌は貴殿が公開したではないか。何が困ることがある」

「そうか。もう俺は要らないと言うのだな」

「さっさと行け。その前に収納魔道具を置いていけ。これも財産に含まれるからな。命を取らないことを有難く思うんだな」


 俺は腰のポーチを外した。

 これは収納魔道具になっている。


 解任と財産没収される謂れはないが、向こうはでっち上げの証拠を揃えている。

 反論するのも馬鹿馬鹿しい。

 何もかも嫌になったような感じだ。


 魔道具が欲しいと強く念じる。

 そうすると、シナグル工房と書かれた表札のある扉が現れた。

 この扉は魔道具が欲しいと強く念じると現れる扉だ。

 俺が作った。


 普通ならシナグル工房に出るはずだが。

 さて、どこに出るかな。

 扉を潜るとがらんとして何もないシナグル工房だった。

 寂しさがこみ上げる。


 工房の道具は全て持ち去られていた。

 徹底しているな。

 だが扉の魔道具は見逃した。

 これさえあればまた出直せる。

 扉は客を運んでくれるからだ。


 魔道具も全部ない。

 色々な財産の詰まった収納魔道具も取り上げられた。


 だが、俺の収納魔道具にはある仕掛けがある。


 『Storage with authentication』、これが呪文の文章。

 認証付きの収納魔道具だ。

 歌は『ラララ♪ラー♪ラーラーラー♪ララーラ♪ララー♪ラーラーラ♪ラ♪、ララーラー♪ララ♪ラー♪ララララ♪、ララー♪ラララー♪ラー♪ララララ♪ラ♪ラーラ♪ラー♪ララ♪ラーララーラ♪ララー♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』だな。


 こんな感じの歌というかモールス信号を魔石に打ち込むと核石ができ上がる。

 これに何も呪文を刻んでない魔石、溜石と言われている物を導線で結ぶ。

 これをがわに取りつければ魔道具の完成だ。


 この収納魔道具は取り上げられて手元にないが、まあ良いさ。

 また一から積み上げれば良いだけ。

 作り方とかアイデアは頭の中にある。


 認証は重要な魔道具には全て付いている。

 だから悪用などできない。


 さてと、転移扉を外すとするか。

 俺は隣の家から道具を借りて扉を外した。

 それを担いで、新たな船出だ。


 そして、1ヶ月後。

 俺は別の街で魔道具百貨店を建てた。

 全4階建てだ。

 魔道具店としては大陸最大規模じゃないかな。


 100種類を超える魔道具があるから、魔道具百貨店を名乗る。

 シナグル魔道具百貨店だ。


 魔道具を欲しがる客の前に現れる転移扉魔道具。

 これを設置。

 さあ準備はできた。


 転移扉魔道具から客が現れる。


「いらっしゃい」

「ここは?」

「シナグル魔道具百貨店だよ。お客さん、魔道具が欲しいと念じたら扉が出たんじゃないか」

「ああ、そうだ」


「注文を聞く前に、ポイントカードだ」

「ええとこれは?」

「毎日、来店するとポイントが溜まる。一定以上溜まると願いを叶える。もちろんできる範囲でだが」

「ただでポイントってのが貰えるのか?」

「ああ、そうだ」

「太っ腹だな」


「それと、ポイントカードを起動するといつでもこの店に来られる」

「それは、危ない目にあった時に使えるな」

「犯罪には使えないのを、あらかじめ言っておく」


「おじさん、おじさん、良い事を教えてあげる。善行を積むとポイントに換算されるよ」


 遊びに来てたスイータリアがそう言った。

 スイータリアは9歳ながら、天才パン職人だ。

 シナグル百貨店の隣でパン屋を開いてる。


「スイータリア、細かい説明しておいてくれるか」

「うん」

「ではお客さんごゆっくり」


 さあ、シナグル魔道具百貨店開店だ。

――――――――――――――――――――――――

前日譚は読まなくても問題ないように書いてます。

ですが、読むと更に面白くなるので是非。


前日譚リンク

https://kakuyomu.jp/works/16818093073204433967

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