第45話 ヘイ大将(2)

「サメ子、悪かったって。ごめんって。」


辞を低く、わざとらしくわたしに媚びへつらう真舟編集長をわたしは睨みつけながら口いっぱいにお寿司を詰め込む。


「ほら、サーモン食うか?サーモン。へい大将、こいつにサーモン握ってやってよ。デカいやつ。」


東京での表彰式も終わり、今は五反田のお寿司屋さんのカウンター席。

結局わたしは、文部科学大臣含むお偉い方や日本中の記者、その数約2000人の前で(潮田の服はサイズが合わなかったので)、"汚れてもいい服装"ことパーカーにジーパンの格好で壇上に上がり、ほぼアドリブで短いスピーチをした。

その時の記憶はもちろんほぼ無いが、潮田曰く、屠畜場で見た光景を思い出しながら淡々とロボットみたいに話すわたしが、会場にドン引きの狂飆を巻き起こしたらしい。


「な、サメ子、そんなに詰め込むなって。ゆっくり食べろよ。服、汚れるぞ。」


「汚れてもいい服で来たんです!!間違えて!」


反抗期の子供のようにわたしは喚く。

ごはん粒がポロポロとパーカーに溢れる。


「そいえばサメ子先輩、賞金の70万は何に使うんですか?」


潮田が甘海老をちまちまと食べながら聞いてくる。

寿司を一口で食べない人間がいるんだ、と自分の世界が今日も広がる。


「あぁ、実はさっき全部使っちゃったんだよね。」


「ドォヘ!!ゴッボォゴフゴフガフ!!!!」


編集長がブサイクな犬のように大きく咳き込む。

苦しそうに咽た後、お茶をガブ飲みする。

潮田が編集長の背中を平手でバンバンと叩き、ゴックンと無理矢理飲み込ませる。


「ハァ、ハァはぁ!? もう全額使ったぁ!? なに、お前、車でも買ったのか?借金か?まさか競馬か!?競艇!?

いや、ホストクラブか!?」


「もしかして男ですか?ついに男できたんですか先輩!結婚ですか!?」


「いや、車でも馬でも男でもないんですけど…

うーん…内緒。内緒です。」


賞金70万円は、正しい使い方をしたと思う。

「ヘイ大将。」と手を上げて、わたしは大トロを頼んだ。


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