第43話 千載二遇(8)

「いやぁ、それにしてもあんな一本背負い、ストファイⅡの嘉納亮子ぶりに見たよ。さすが京坂氏。」


「何言ってるのジェット君。あれは大外刈よ。腰に乗せないで低く巻き込むの。背負い投げよりスキが少なくて力も使わないから、華奢なお京でも十分パワーがあったよね。それよりあの固め技よ!」


「武道はある程度、子供のときに習ってたのよ。

投げ技は体格差がある方が効果的って教わったんだけど、あんなに綺麗に技が入るとは思わなかった。ちょっと恥ずかしい。」


「投げキャラはリーチ短いからムズいけど、コマンド投げは練習したっすもんね〜。真空一本背負いとか。懐かし〜。」



…なんでみんなそんなに投げ技に詳しいの?

わたしだけかな。投げ技ウンチクがないの。


今は交番のエントランス。

岬ばあと当たり屋の事故の事情聴取に協力していたら時刻は19時。

五十嵐さんはこれから、おまわりさんの制服を脱ぎ占い師の衣装で駅の地下へ向かうらしい。

「こんな日も行くんですか?」と聞くと

「本業なんで」と返ってきて呆れた。




「そいえば鮫川さん。どうでした?あの後。ありました?運命の出会い。」


「皆無ですよ。自信喪失、意気消沈、自暴自棄。

屠畜場で失神して大切な人が亡くなって猫が死にかけて暴力団と対峙して。5話らへんから散々です。」


「5話ってなんすか?」


五十嵐さんが眉をひそめる。


その場にいた全員が黙ってわたしを見た。


…。


「運命の出会いって?」


沈黙を破ったお京の問いに、わたしは五十嵐さんのタロット占いの話をした。

仕事柄、人との出会いはあるけど、そんな運命的と呼べるほどの出会いは最近は無いような気がするけど。


「じゃあもしかして鮫川さんの運命の出会いって…」


辺りをキョロキョロと見渡したあとに五十嵐さんがゆっくりと自分を指さして微笑んだ。


パキポキッと人差し指の何かが折れる心地の良い音が鳴る。


「い……ってぇえ!!!!!何するんすか!」


「次、音季にちょっかいかけたら指全部折りますよ先輩。」


「ちょっと!!指は野球選手と占い師の商売道具でしょ!!痛ぇ〜…」


「野球選手は肩じゃないの?」


とジェットの援護射撃。


「いいでしょ!指でも肩でも!一瞬意識トんだっすよ!ショック死でもしたらどうするんすか!」


「私の旦那、葬祭関係で仕事してますので。何かあったらうちで面倒見てあげます。五十嵐先輩。」


「それ脅迫罪ですよ…。威力業務妨害罪だわ…これ。

鮫川さん、いい友人に恵まれましたね…」


手をぷらぷらしながら五十嵐さんが皮肉たっぷりにわたしを見る。


「うん。ほんとに。」


わたしの隣には笑い声が3つ。

子供みたいに微笑みを返す。

わたしの分も足して、全部で4つ。

4人でいっしょに、歩きだした。

わたしは4人がすき。

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