第40話 千載二遇(5)

パン屋の前であすみちゃんと合流。

ギンの血反吐で汚れた服は流石に着替えていた。

よそ行きの服だったろうに、申し訳ない。


「ギンは大丈夫だった?」


「うん。やっぱり食中毒だった。お薬飲んだら即効元気!明後日退院よ。迎えに行ってあげてね。」


あすみちゃんから診療明細書を受け取る。

そこには【鮫川ギン ちゃん】と書かれおり、

「別にわたしが飼ってる猫じゃないんだけど…」

と違和感を覚えるも、思わず笑ってしまった。


このパン屋さんからだと、当たり屋が潜んでいる曲がり角はほど近い。

パトカーをパン屋さんの駐車場に停めて、五十嵐さんと共にわたしたちは現場の曲がり角に急いだ。




「あ!あれ。もしかして、?」


曲がり角の数十メートル手前。

ポケットに手を入れたままの目つきの悪い男。

「DESTINY」と刺繍の入った帽子を被っている。


獲物にぶつかる予行練習なのか

はたまた自分のシマのパトロールでもしているのか。

白昼堂々、確かにあの男が現れた。

ここでわたしの大切な人が、あの男によって生命を奪われてしまった。

その事実に動揺する。

岬ばあの優しい横顔をふと思い出してしまい

怒りと怖さで鼓動が速くなる。


「あの男。五十嵐さんあの人です。」


「いや〜。ラッキーガールなんだから鮫川さんは。」


五十嵐さんがへらへらと笑う。

男がこちらに気づいた。

警察の姿に驚いたのか、早足で遠ざかって行く。


追いかけようとしたそのとき。

自販機の影から血走った目のお京が姿を現した。

地面を強く蹴り、風のように素早く間合いを詰めめ、男の懐に入る。

そしてスローモーションの映像のように

ゆっくりと男を一本背負いした。


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