第29話 延長線上(2)
13歳の夏。中学1年生の私がいたあの夏。
3人のすぐ頭上を大きな飛行機が通り抜けたあの夏。
私とあすみちゃんが"開いた口が塞がらない"のを照れくさそうに、でもどこか誇らしげに見ていた少年。
今、大人になった彼が目の前で、今にも零れ落ちそうな、大人になったわたしの涙を塞き止めた。
「今ならまだ間に合うよ。鮫川氏。」
行くんだろ?と目で語りかける。
そっか。本気で言ってるんだ。
「ドリームリフターって、あの、中1の夏休みに見に行った?」
あすみちゃんがわたしとジェットを交互に見る。
中3から登場したお京はキョトン、と「何それ?」
の顔をしている。
「現在ドリームリフターには日本各地域の工業地域に精密機器の部品なんかを運ぶ小型の機体があるんだ。ドリームリフターのプラットフォームは愛知県のセントレア空港。そして四国地方の拠点は高知空港からすぐの工業団地。今から空港に急いで四国の直行便に乗れば、約70分後には高知空港に到着するはずだよ。」
待ってましたと言わんばかりの自慢げな早口で話す航空オタク。
これだけの台詞を一文字も噛まない。
「ちょっと待って。理屈はわかったけどそう簡単に乗れるわけ?そのドリームリフターに。」
あすみちゃんが当然の疑問をぶつけると、ジェットがポケットから名刺入れを取り出した。
「約束通り、僕、パイロットにはなれなかったんだけどさ、あれから航空大学に進学して今は航空貨物の会社に勤めてる。技術職として機体の管理をしてるんだ。もちろんドリームリフターの管理もすることがあるわけ。まだ下っ端だから僕にそんな権限はないんだけど、上に無理言って何としてでも乗せてもらう。だから間に合う。急ごう。」
早口でジェットが言う。噛まずに。
岬ばあにまだ会えるかもしれない。
ほんの僅かだが、真っ暗だったわたしの中にポツリと豆電球程の灯りが灯った。
「現在時刻は9時35分。10時15分発の高知空港行の小型機が1便ある。到着は50分後の11時5分。鮫川氏、岬ばあさんのご実家の住所はわかる?」
どうやら飛行機のダイヤは全部頭に入っているらしい。ジェットが早口で聞いてくる。
そうだ。仮に高知空港に着いたとしてもそこから岬ばあの故郷までどれくらいかかるかわからない。
それに葬儀場の住所もわたしは知らな…
3人の顔を交互に見まわして、釣り竿のリールを回すジェスチャーをする。
「釣り竿!!釣り堀に置いてる岬ばあの釣り竿に住所が書いてあるタグが付いてた!」
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