第20話 魚心水心(4)

深海と宇宙はきっと似ている。

湯船に浸かってそんなことを考えた。


真っ暗闇で身体がぷかぷか浮いて

大きな力でぺしゃんこに潰されて

黒色に飲み込まれ溶けてゆく。


不細工な深海魚や宇宙人が

それを指を差して朗らかに嘲笑うのだろう。


さっきの少女の顔を思い出す。

自分の好きなことがわからない

どうしていいのか分からない

困惑と諦観が混ざった深い黒。

星の見えない夜の色。



「優しい人になってね」

「困っている人を助けてあげてね」

お父さんがわたしにいつも言っていた言葉。

日々そう有りたいと努めてはいるつもりだった。


でも。暗闇に溺れ、助けを求めるあの子に

なにもしてあげられなかった。

流れる涙を眺めていることしかできなかった。

さっき知り合った、赤の他人ではあるけど

優しい言葉をかけてあげたかったな。


お父さん、ごめんなさい。



ヒトは考える生き物だ。

考えて考えて、考え抜いた挙句、

未来をごちゃごちゃに散らかして

片付けが上手くできないのもまた然り。


未完成のくせに

一丁前に完璧を目指したがるんだ。

そういうの、良くない。

24歳の、わたしの持論だ。




今日はもう寝よう。

 

寝ているだけで朝がくるなんて

なんともありがたい話じゃないか。

風呂から上がり、髪を適当に乾かして

ベッドに横になる。

目を瞑ると、さっきの夜の海がまぶたに映る。



【みんなに会いたいな】



声に出たのかどうかも不明確。

確かにそう、私は強く想った。

みんなに会いたい。

月明かりだけの薄暗い部屋で

ふと、4人のグループチャットの画面を開く。


トーク履歴を見ると、

<< なんじゃそりゃ。

という私の中途半端なツッコミで会話は

一旦終了し、9年間、時が止まっている。


ええい。思い立ったが凶日。私の負けだ。

頭に浮かんだ懐かしい言葉を指がなぞる。


【送信】を押すと、即座に3人の既読が付いてその速さが可笑くて嬉しかった。

疲れ切った心と身体が、じんわりと色を取り戻す。





鮫川 『ストレンジテトラ、集合要請です』


---------(既読3)--------


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