第17話 魚心水心(1)
「ご飯炊く時、お米洗うじゃないですか。その時、熱っつい熱湯で洗うんですよ」
箸で挟んだ卵焼きを宙で静止させ、わたしは続ける。
「我慢できる限界の熱さでお米を研いで、そんで一旦研ぎ汁捨てたら今度は冷水で洗うんです。そしたらなんか手だけ部分的にサウナと水風呂入ってる気分になって気持ちいいんです」
わたしが意気揚々と話しているのに相槌の一つも無かった。
自分から話題を振ってきたのに、真舟編集長は弁当から顔を上げない。
隣を見ると、潮田がわかりやすくドン引きしている。
「先輩見てください。私、ドン引きしてます」
と顔に書いてある。
薄情な人たちだ。
今日の午前中は町のお弁当屋さんの取材だった。
賞味期限が過ぎたお弁当は全て廃棄してしまうそうで、3人分の幕の内をお土産にいただき、昼休憩中の今、食べているところだ。
廃棄するのにも業者を呼ぶのでお金がかかるらしい。
なんとももったいない話だ。
ショーケースに並ぶケーキ屋のスイーツも
規則正しく並んでるコンビニのおにぎりも
値引きされて
余り物は従業員で分けて
それでもダメだったとき。
必要としてくれる人がいないと
彼らは捨てられてしまうのだ。
作った側の人たちは、
どんな気持ちで″不要″の烙印を押すのだろう。
やりきれない思いで哀しくなる。
「しっかし勿体ねぇよな。こんなに美味いのに。世の中どうかしてるぜ。」
海賊のように唐揚げを頬張り、編集長が呟く。
「定額で廃棄のケーキ貰えるサブスク、あったらいいと思いません?」
それとは対照的に毛虫が葉っぱをかじるように、潮田がアジフライをちまちま食べる。
「捨てられるお弁当の未来は、お前にかかってるぞ。サメ子。いい記事書けよ。」
「先輩、頑張ってくださいね。」
編集長と潮田とお弁当から寄せられる無味無臭の期待を背負い、「へいへい」とわたしは無気力に返事をしてコロッケを頬張った。
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