第14話 占術日和(2)
桜の木々もすっかり葉を茂らせ、季節は5月。
潮田が入社してから早2週間が経った。
昼休憩中、かわいいピンクのタンブラー片手に
自分の週刊テトラのページをニコニコしながらスワイプしていた潮田が『そいえば先輩、』と思い出したように口を開いた。
「あたしと占い行く約束、まだですか?」
「え、なんだっけ、それ」
覚えてたか。咄嗟に目を大きく見開いて、頭の悪そうな顔芸で押し通すことを試みたが、どうやら手遅れ。
「すっとぼけないでくださいよ。地下街の占い屋さん、一緒に行ってくれるって約束したじゃないですか〜。今日仕事終わりに行きません?」
駅地下のアーケードまでは会社から歩いて15分ほど。
潮田は電車通勤なので帰宅ついでなのだが、完全にわたしは家と反対方向。
仕事の一環だ。仕方なし。
いいけど、とぶっきらぼうに返事をした。
会社を出て、今にも降り出しそうな夕空の下、駅に向かって二人で歩く。
「そいえば、鮫川先輩って、彼氏いるんですか?」
今日も先手は潮田。
あーはい出た。ついに出ました。と身構える。
これだから虹色キャンパスライフを存分に遊び尽くしたキラキラロマンスガールは苦手なんだ。
上司に色恋の話吹っ掛けないだろう普通。
わたしの中の意地悪顔の姑が、
この小娘!とハンカチを噛む。
「わたし 恋愛の話するの 嫌いなんだ」
「え〜、なんですかそれ。いいじゃないですか〜」
潮田が不満げな顔をするが、先輩の恋バナ、ぶっちゃけ興味ないですけど~。と顔に書いてある(ようにわたしには見える。)
金輪際、この小説の中で恋愛の話はしない!
とわたしは誓った。
駅の階段を降りると、地下街の一角に、入り口に黒色の布が垂れ下がった禍々しい店があった。
看板には【ジガリア】と店の名前が怪しい文字で書かれている。
「あ、これです!いつもは10人くらい並んでるんですよ~。こんにちは〜!」
時間が早いからか空いている。
世の中には物理的に行列のできる占い屋さんがあるのか。
潮田が先陣を切って真っ暗な部屋に潜ってく。
わたしも続いて中に入ると、小さな折りたたみの机に若い茶髪の男が1人、頬杖を付いて座っていた。
歳は20歳くらい。わたしより若くみえる。
華奢な塩顔の男性。
耳にはいくつもピアスをしていて、首にはチェーンのネックレスをしている。
全体的に、香水の匂いがキツい。
失礼だけど、どう見ても占い師には見えない。
チャラチャラした美容師か、
ナンパに明け暮れる大学生のような風貌だ。
あまり関わりたくない。
「すいませ~ん、ここですよね?ジガリアさん。今、大人気の!占って欲しくって~」
言葉の節々にギャルが滲み出ているが、ちゃっかり名刺も差し出しながら、ニコニコ笑顔で潮田は突撃する。
たまたま遭遇したファンでもない有名人にサインを求めるときの感じだ。
取材には勢いが大事。編集長の言葉を思い出す。
此奴、なかなかできる。合格。
「え~っ!週刊テトラって、あのテトラ!?もしかして取材っすかぁ?俺に?やっば!!」
名刺を見るなり、占い師は勝手に取材を了承してくれた。
言葉の節々にギャル男が滲み出ているが、流石は易者。察しが良すぎる。
「そうなんです~。よく当たるって話題のぉ、
占い師さんの取材をさせていただきたくて~。」
「よく当たる…?」
その言葉に占い師が顔をしかめる。
癖なのか、もう一度頬杖をついてわたしたち二人を交互に見た。
「あのぉ…、俺の占いは当たりませんけど。」
薄暗い部屋に、沈黙がガスのように漂う。
「占いとか(笑) 当たるわけないじゃないですか。」
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