第12話 一文菓子(4)
『茜』『夕景』『黄昏』『夕映え』
お日様が橙色になると名前がたくさん増えるなぁ。
足をプラプラさせる。
テトラポッドから見る四月の夕日は、ワインのように真っ赤だった。
(あんまり飲んだことないけど)
私はどうしてこの仕事をしてるんだろう。
自分の足元を見つめる。
何を生き甲斐に、
誰のために、
何のために。
ふと、16歳の誕生日の日のことを思い出す。
あの日も一人で海に来てたっけ。
大好きだった人のことを思い出す。
「そんなこと、考えたことないです。」
さっき、もみじやで言えなかった台詞が、
今更になって目の前の海に落っこちた。
テトラジャーナルに就職を決めた動機は
今思えば、ほんとに″風まかせ″だった。
卒業してからは、東京の小さな広告代理店に就職した。
都会のオフィスビルでOLをしている自分を2年間演じたけど、どうもしっくりこなくて、逃げるように辞めてしまった。
地元に帰ることにも踏ん切りがつかず、「何かを追うにも逃げるにもアクセスがいいから」という理由で愛知県のこの街に引っ越してきた。
仕事もせず、ただ海を眺めるだけの日々が少しの間だがあった。
そろそろ働かなくちゃ、とぼちぼち求人を探していたら、テトラジャーナルのことを知った。
私の好きなテトラポッドと同じ『テトラ』と付くし、職務の内容も前職と似つかわしく思えたので(実際は全然違ったが)面接を受けてたみた。
それから早4年。今に至る音速の日々。
今の仕事は、楽しい。
やりがいも感じてるし
会社の人たちも好きだ。
ポケットから飴玉を取り出して口に入れた。
シュワシュワと甘いコーラの味。
夕日を舐めているような気分になる。
きっとこれからわかっていくんだ。
明日、釣具屋に行ってみよう。
性格も見た目も地味だけど、根がポジティブなのが私の強みだ。
テトラポッドに別れを告げ、立ち上がる。
今夜は魚を食べるんだ。
今朝、釣竿を握った時から決めてたんだ。
夕日のような飴玉を、コロコロと舌で転がす。
ゆっくりと溶けていくコーラの味。
陽が沈み、大きな小さな星たちが、
一日の終わりを告げる。
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