第8話 有色透明(4)

自販機補充員の記事は、予想通り好評だった。

名刺に書かれた古賀社長のアドレスに御礼のメールを送った。

後日、古賀社長から御礼の返信と、自販機で使えるプリペイドカードが届いた。


仕事を通して知り合った人に、御礼を言われると

こんなわたしでも嬉しくなる。

早速飲み物を買いに行こう、とご機嫌で立ち上がる。

歓喜に満ちた幼気なわたしに一瞥もくれず、真舟編集長が後ろから氷のように冷たい言葉を浴びせる。

 

「俺、ブラックな」


いつものやつ。よろしく。

声はないけど、声色がそう言っている。

反抗期なのかな。と時々編集長が本気で心配になる。


ビタンと床に投げられた可哀想なカードを拾い上げ、そんなんだから独身なんですよ、と思いながらわたしは部屋を出た。


編集長から預かったプリペイドカードを自販機にかざす。

残額は六百円。明日からもう四月だな、とわたしはため息を付く。


「ん」


毎朝押しているブラックコーヒーのボタンから【売り切れ】のランプが消えていた。

いつのまにか、補充に来てくれてるみたいだ。


誰かの歯車。


わたしの唇が小さく動く。

ボタンを押して、なんとなく自販機に会釈する。



みんな、きっと知らず知らず

誰かの役に立っている。


頭上にある照明も

道路に立ってる電柱も

消化器も

この自販機だって


知らない誰かが発明して

誰かが設計して、製造して

誰かがここまで運んで

設置した人がいる。


真舟編集長の我儘な歯車をわたしと古賀社長がほんの少しだけ動かした様な気がして、なんだか可笑しかった。


両手に握ったぽかぽかレモンが

ほんのり温かい。

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