第25話 選別
「……は?」
生徒の一人の、震える声が静寂を破る。
他の生徒たちも、ラネットの言葉に、恐怖と驚きを隠せない様子で顔を見合わせる。
新入生の約8割がDクラス。
それだけでも異常事態なのに、さらに数を減らすときた。
王立魔術アカデミーの名声は、彼らにとって憧れであり、同時に目標だった。
そんな彼らにとって、ラネットからぶつけられた事実は、あまりに残酷なものである。
生徒たちは怒る気力もなく、ただ立ち尽くした。
「はぁ……やはり大半は、論外どもと同類か。私の発言に奮起するくらいであれば、まだクズで済むのにな」
ラネットは生徒たちの反応に、心底失望したようにため息をつく。
そして、教卓に置いてあったチョークを手に取ると、黒板に、巨大な魔法陣を描き始めた。
魔法陣は、複雑な幾何学模様と古代文字で構成されており、ラネットの滑らかな筆致で、みるみるうちに完成していく。
数分後、魔法陣が完成すると、黒板から淡い光が放たれ、教室の床一面に、同様の魔法陣が広がっていった。
「さて、出来損ないども。よく聞け」
ラネットは、チョークを教卓に放り投げると、生徒たちに向けて、ゆっくりと話し始めた。
「今から貴様らに課題を与える。クリアできた者だけが、Dクラスに残ることを許される。
課題の内容は単純だ。合図をしてから10分間、その魔法陣の中にいること。それだけだ」
「それだ──」
「そんな簡単な課題でい──」
あまりに単純な課題内容に、二人の生徒が拍子抜けだと笑みを浮かべながら、発言しようとして、その声が途絶える。
発言の途中で、二人の姿が教室の中から消えてしまったからだ。
「消えた……?」
一人の生徒が、怯えた声で呟く。
他の生徒たちも、突然消えた二人の生徒に驚き、不安げに周囲を見渡す。
静寂に包まれていた教室が、少しずつ騒がしくなる。
「おい、一体な──」
「あいつら、ど──」
「な──」
「ふざけ──」
混乱し、騒ぎ立てようとした生徒たちの姿が次々と消えていく。
目の前の光景と、ラネットの射抜くような冷たい視線に、すぐに騒ぎは収まった。
「やっと静かになったな、つくづく失望させられる。
単純だと笑い飛ばすようなクズ以下の愚者、目の前の光景にいちいち狼狽えるような臆病者にはアカデミーを去ってもらった。
ああ、臆病者のクズのために補足しておくが、死地へ飛ばしたわけではない。身の安全は確保してあるから安心するといい」
ラネットは、そう言いながら、残った生徒たちを冷めた視線で見下ろす。
教室に残っている生徒の数は、既に最初の半分以下になってしまった。
「さて、不本意ながら足切りも済んだことだ、本題に戻ろう。
その魔法陣は時間経過と共に、徐々に魔力を放出する。放出された魔力に呑み込まれると、さっきのクズどものように転移させられる。
貴様らは先ほども話した通り、時間と共に出力を増す魔力に呑み込まれず、10分間その魔法陣の中にいれば合格となる。
……説明は以上だ。詳しいことはやりながら理解しろ」
ラネットがそう言い放つと同時に、魔法陣が赤く光り始めた。
次の瞬間、魔法陣から、生徒たちの足元に向かって、凄まじい勢いで魔力が噴き出した。
「では、これより選別を開始する」
◇ ◇ ◇
開始からまもなく、魔法陣から噴き出した魔力に対応できなかった生徒たちの姿が次々と消えていく。
既に残っているのは、20人程度である。
生徒たちの動揺など知らずに、魔法陣の魔力は勢いを増し続けた。
残った生徒たちは、恐怖と動揺をなんとか押さえつけながら、魔力を避けたり、防御を試みたり、攻撃魔術をぶつけたりなど、それぞれ生き残るために必死で、対処法を模索する。
「っ、これは……この魔力は……!」
ルクスも他の生徒と同様に、持てる力を最大限に用いて、噴き出し続ける魔力の対処に奔走していた。
その表情は驚愕に染まり、珍しく動揺した様子である。
しかし、他の生徒のように恐怖に駆られたことによる動揺ではない。
魔法陣から噴き出す魔力がルクスにとって、予想だにしない馴染み深いものであったからだ
「間違いない……これは、神代魔術だ」
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