第8話 現実
(何だ……何が起こった……? 何かをぶつけられた? あぁ、そうか。魔術で攻撃されたのか……速いな、反応できなかった。ふふ)
壁に叩きつけられた衝撃で意識が朦朧とする中、ルクスは必死に思考を巡らせる。
全身を激しい痛みが走り、まともに呼吸をすることすらままならない。
しかし、ルクスの脳裏に浮かんでいたのは、この状況に対する恐怖や、怒りといった負の感情ではない。
むしろ、驚きや喜び、懐かしさといった正の感情だ。それらがごちゃ混ぜになってルクスの口に笑いが込み上げてくる。
「うっ……はは。はははっ! ははははは!!」
やがて、耐えられなくなったルクスの口から高らかな笑い声が上がる。
その様子に、理不尽に嘆くか、泣き喚くものだろうと考えていたゴルディオは、怪訝そうな顔でルクスを見つめている。
「なにを笑うところがある? 打ちどころでも悪かったか?」
「はは……はー……いえ、おかしいやら、嬉しいやらで少し。ここまで"差"を肌で感じることも無かったものですから……まだまだ先があるっていいな、と改めて思いました」
「何を言っている?」
ゴルディオの問いかけに、ルクスはゆっくりと体を起こしながら答える。
「こちらの話ですよ。……訳がわからないのは変わらずですが、言われた通りいきましょう……死ぬ気で!」
ルクスは、壁からゆっくりと体を起こすと、好戦的な笑みを浮かべてゴルディオに向かって走りだした。
「まあいい、私のやる事は変わらん。後悔するなよ、ルクス」
ゴルディオは微動だにせず、突進してくるルクスに向かって右手をかざす。
次の瞬間、ルクスの体は再び宙を舞い、訓練場の壁に叩きつけられた。
「ぐうっ……!」
ルクスは、激痛に呻き声を上げながらも、今度はすぐに体勢を立て直す。
先ほどとは違い、不意打ちではなかったので、何とか受けることができた。
(やはり無理か……だが、仕組みは分かった。奴は空気を圧縮して飛ばしている……ただ、分かったところでだが……)
ルクスは、2度の攻撃で、ゴルディオの魔術を分析していた。
ゴルディオは空気の密度を操り、目に見えない弾丸のようにして撃ち出している。
魔術によって発生したものではなく、自然物を操っている分、感知が難しく、避けづらい。
さらに、現代魔術の例に漏れず、無詠唱はもちろん、目に見えるほどの予備動作も手を向けるぐらいしか見受けられない。
(当然、現代魔術を相手に、詠唱や儀式が必須の神代魔術を発動する隙はない。
かと言って、今の俺の現代魔術の腕では、どうしようもない……それに、受けたダメージは無視できない。さて、どうしたものか)
「どうしたルクス。もう手詰まりか?」
「……」
ゴルディオは、表情を変えずにルクスに問いかける。
ルクスに向けていた右手は既に降ろしており、臨戦体勢を解いている様子だ。
「そうか」
「はぁ、はぁ。何がしたいのですか? いきなり攻撃をやめて」
「言っただろう、現実を教えてやると。あれで手詰まりならば、もうする事はない。
……お前は魔術師にはなれん。アカデミーも無理だ」
ゴルディオは、ルクスに鋭い視線をぶつけながら、淡々と告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます