第8話 辺境の地で

 木造の建物の中と思われる飾り気のない部屋で、粗末な木のテーブルの上で書類と格闘している美しい黒く長い髪の若い女性がいた。

 辺境の地で国を興した姫だ。


「姫様、エルフとドワーフとの交渉はいかがでしたか?」


 声をかけたのは、青髪の護衛の騎士。


「はい、お陰様でうまくいきました。これでエルフの里やドワーフの村との大規模な交易ができそうです。エルフからは薬の原料となる薬草や木の根、それからドワーフからは金属加工品や宝石細工が入手可能となります。細かいルールは、また別途詰めなければいけませんが……」

「それは通商担当に任せましょう」

「そうですね」

「魔族との協定は……」

「相互理解を深めるため、まずは文化交流から始めていく予定です」

「良いアイデアです」

「若いハーピー(上半身が女性で、腕と下半身が鳥という魔族)と相性占いして、ウインクされてあわあわしてたらダメですよ? マーサも見ていましたからね」


 マーサという言葉にドキリとする騎士。

 マーサとは、街で子どもを亡くした黒髪の女性のこと。今はこの騎士との愛を育んでいる。


「だからマーサの機嫌が悪かったのか……」

「……大切にしてあげてくださいね」

「はい! まだ悲しみは癒えていないようですので、しっかりと支えたいと思います」


 騎士の真剣な顔付きに、姫も笑顔で頷いた。


「ところで、例の件は……」

「あれから音沙汰は……こちらからできることは何もありません……」


 悲しげに微笑む姫。



 先日、王国からの軍事侵攻があった。

 姫を返せ、ストーンブラックは王国に帰れと。



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