第7話 困窮する王国
――姫の旅立ちから一年後
城内の王の執務室。
王と側近とが厳しい顔をして話し合っている。
「陛下、この状況において占いの予言にあった新しい宝石はもういません。このままでは王国は……」
「…………」
頭を抱える王。
姫が姿を消してから一年。
王国は大変な事態に陥っていた。
国中のストーンブラックが姿を消したのだ。
人口の三分の一以上が消えたのである。
姫の施策により活性化していた経済の回転も止まり、平民の間でも貧困層が生まれ始めた。また、ストーンブラックが請け負っていたゴミの処理などを行うものもおらず、街の中はゴミや汚物が溢れ、悪臭が漂っている。
何よりも深刻なのは、ヒエラルキーの崩壊であった。
下級平民であるアンバーイエローにストーンブラックの代わりをさせようとするサファイアブルーとルビーレッドといった貴族たち。それに抗うアンバーイエローと、彼らを雇用している上級平民のエメラルドグリーン。現状を根本から改革しようという気概もなく、ただ自らの権利だけを声高々に叫び始めた王国民の間で大きな摩擦が生じ始め、国そのものが機能不全に陥り始めていたのだ。
竜の逆鱗にも触れてしまった。
姫が去った後、銀髪の若い男性の姿を模した竜が城へ突然訪れた。
王たちが寛いでいた城の中庭で真の姿を晒した竜。
光輝く銀色の姿に驚き、恐怖する王。
その銀色は、どこかで見たことがあった。
竜は怒り狂っていた。
勇気ある姫を国から追い出したのかと。
そもそも竜は供物など望んでおらず、これまでも生贄と称してやってきた者たちは、そのまま何もせずに帰していたという。差別のある国へ帰って来ずに、そのままどこかでひっそりと暮らしているのかもしれない。
姫は竜と対話し、この髪と髪の色を捧げる代わりに、王国を守護してほしいと懇願。女性の命とも言える髪と、その色を捧げるという姫の気概に心を打たれ、それを約束したという。
「姫との約束は解消する。姫の気持ちを思うと本当に腹立たしいが、こんな石ころ以下の存在の国をわざわざ滅ぼそうとは思わぬ。遅かれ早かれ自滅するであろう。自らの愚かさを悔やみながら滅びるがよい」
竜はそう言い残して姿を消した。
側近を前にして頭を抱える王は、あの時の予言を思い出していた。
『その輝きにより
ゆっくりと顔を上げる王。
「……姫に帰ってきてもらおう……」
「し、しかし、姫様は辺境の地で新しい国を興されて、そこに根付いていると……」
「……違う……」
「えっ?」
「……姫はストーンブラック共に連れ去られたのだ! 自国の姫が連れ去られれば、取り戻すのが当然であろう! ストーンブラック共も全員連れ戻し、王国のために尽くさせるのだ!」
王の言葉に側近は頷いた。
「それでは騎士団を中心とした姫奪還隊を組織し、辺境へと派遣します。これは戦争ではありません。我が王国として正当な軍事行動です」
「頼んだぞ」
「承知いたしました」
側近は執務室を出ていった。
王は立ち上がり、窓から城下町の様子を眺める。
城からでもゴミで汚れ切った街の様子がうかがえた。
「この王国には宝石が似合う……それが黒き宝石であっても……」
王は静かに目を閉じ、姫の帰還を祈った。
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