第5話 姫の帰還

「陛下! 姫が……姫が帰ってまいりました!」


 旅立ちから一ヶ月。

 姫が帰ってきたという情報に驚く王。すでに城下町に続く門の前にいるという。

 慌てて馬車を走らせる王と側近たち。

 門の周辺には大勢の王国民が集まっていた。

 馬車を降りた王たちは、王国民をかき分けるように門へと向かう。

 しかし、王国民たちが歓喜に湧いているような感じはせず、まるでお通夜のように重苦しい空気が漂っていた。

 帰ってきた姫が王の視界に飛び込む。

 重苦しい空気の理由が分かった。


 姫は坊主頭だったのだ。

 かすかに生えた髪の色は、黒。

 もう宝石姫の面影はなくなっていた。


「陛下、竜と交渉の結果、私めの髪と髪の色を供物として捧げてまいりました。竜はたいへん喜び、王国は今後少なくとも百年間は安泰でしょう」


 真剣な面持ちの姫に、王は何も行動できず、何の言葉も出てこない。


 ゴンッ


 姫の頭に王国民の誰かが投げた石が当たった。


「黒髪のお前は姫様なんかじゃねぇ!」


 ひとりの王国民の叫び。その輪が広がっていく。


「お前はニセモノだ!」

「姫様は死んだんだ!」

「俺達の街に姫様のニセモノなど入れさせるか! 帰れ!」


 自分たちを救ってくれたのがストーンブラックという事実を受け入れられない王国民たちは、姫に向かって石を投げつけ、罵声を浴びせた。

 この状況に焦った姫は、王に救いを求める視線を向けた。


 しかし、王は目をそらし、そのまま背を向けて馬車へと向かっていく。

 占いの予言は間違いだったのだと考えながら。


 飛んでくる石と罵声に耐えかね、逃げ出すように門に背を向けて街道を走っていく姫。背後から聞こえる歓声に心は折れ、理想の根は抜け始めていた。



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